愛知県の犬山遊園駅を下車。
線路沿いを少しばかり北上すると、右手に、禍々しくド派手な建物が見えてくる。





どうですか、これです、これが今回ご紹介する物件です。
「青い城」「おはようございます」「ヴィクトリー」などなど壁中に、とりとめのない言葉が好き放題書かれていて、電波住宅にも通じるヤバげなオーラさえ放っている。
さっぱり何屋か分からないでしょう？


ここね、これで、カフェなんですよ。


店名は「パブレスト百万ドル」って言うんです。さあて、詳しく解説していきましょう。
あ、そうそう、じつはこの駅、ちょっと歩いたとこには「桃太郎神社」も存在してて、珍スポ好きにとってはワシントンDCにも匹敵する超重要都市なのです。有事のさいには、犬山の防衛を最優先にお考えいただきたい。
（レポ：『桃太郎が生まれた、あの桃』『鬼が島の岩』があるぞ！！「桃太郎神社」【愛知県犬山市】）




●まずは、奇抜な外観を堪能せよ！



店を取り囲むレンガブロックやトタンには、余すとこなくペンキが塗られている。赤や緑、黄色といった原色がお好み。
星と月のモチーフがトルコの国旗を連想されるが、とくにトルコとの繋がりはない。





塗れるとこは全て塗る。UCCの看板にだって、デコレーションを欠かさない。
ハートのなかに小さく書かれた「カワイイ」を見逃すな！





入口横の柱には「幸せの国ブータン」「スペインマドリード」といった国名と、「青春時代」「初恋」「愛」といった甘酸っぱいワードが描かれている。なんだなんだ、どうなってるんだ。





本来ならば店名を書くべき場所に「ナイトパブ　カフェ青い城」と紛らわしい言葉が。ナイトパブの表記が「NAITOPABU」とローマ字表記なのもポイントが高い。





「コーヒー380円」の値段のしたには、食べログ・YOUTUBEの文字が踊る。


YOUTUBEが、どうした。


何の説明もなく、YOUTUBEと断言されましても。





換気扇ダクトには、瞳孔が開ききった人の顔が描かれているぞ。





表だけじゃなくて、建物の横っつらにきっちり書き込みはされている。





宝塚のスターたちが描かれてるともに‥





いえーい、ここにもあったぜ、YOUTUBE！
いったいなんなんだ、YOUTUBEがどうしたってんだ！





●店内も絵で埋め尽くされている！



勇気を振り絞って、扉のなかへ足を踏みいれる。
店内は思いのほか、広い。毛の短い固めの赤ソファーが並んだ、昔ながらのナイトパブといった雰囲気。テーブル席は８つほどあったが、このとき、客は俺１人であった。









店内も絵で埋め尽くされているのだが、やけに上手い。油絵ではなく、ペンキで描いているそうだ。
ムンクやフェルメールを模写した名画シリーズ、宝塚女優や浅田真央を描いた有名人シリーズがあった。





店舗中央にはカラオケがあり、1曲50円で歌える。床にはライトが仕込まれてるから、ピカピカ光って、ムード満点だ。




●サービス精神が異常！ナポリタンを頼んだだけなのに‥



60代後半とおぼしき人あたりのいい夫婦が経営している。
入店するなりマスターに

「よく入ってこれたねーー！」

と驚かれた。
聞くところによると外観がヤバ過ぎて、ぜんぜん客が来ないんだとか。なるほど、その自覚はあるんだ。
「入ってきてくれて嬉しい！僕はお客さんと話すためにやってるの！」と素直な喜びよう。どうやらマッドなお方ではないようで、ホッと一息である。

席に腰かけ、ナポリタンスパゲティー・サラダ付き780円を注文。
頼むやいなや、まるで間をおかず「嬉しいからサービスね」とスイカを２切れも持ってきてくれた。すげー気の利いたサービスだぜ！





お次に運ばれてきたのはセットメニューのサラダ。
このサラダがすんげーボリュームでね。メロンとパイナップルが突き刺さってるわ、三色お団子が置かれてるわ、この時点でもう、腹６分目になってしまった。





メインディッシュのナポリタン。ガーリックがしっかり効いてるガッツリパスタで、もうお腹ぱんぱん。
「いやー、なんかいろいろサービスしてもらっちゃって、ありがとうございます」なんてお礼を述べていたら‥





畳み掛けるように、「これもサービスだから！」と、フルーティーでボリュームたっぷりのパフェを出してくれた。
ど‥どんだけサービスしてくれるのー、このお店！！！





「すごい、名古屋のカフェのサービスはやっぱり尋常じゃねえ！」と衝撃を受けていたら、「はい、サービスのコーヒーね」と、食後のコーヒーまでごちそうになってしまった。
なにこれ、サービスの確変入った？チューリップでなく、口と胃袋が開きっぱなしだ。




●謎は解かれた！怪しげなイラストたちは、店主の人生そのものだった！



店の内外を問わず、溢れかえってるイラストの数々。このイラストを書くに至るには、しっかりとした理由があった。
謎が解かれたきっかけは、この一枚のイラスト。

「この赤ちゃんは誰なんですか？」

の質問を皮切りに、マスターは俺の真向かいにどっしり座り、マシンガンのように身の上話しを語りはじめた。
なんでも、この赤ちゃんは、マスターの息子さんで、名前をゆうき君というんだとか。たいそう可愛がっていたのだが、妻とともに逃げられてしまい、あまりのショックで経営してたレストランを９年間休業。しばらくなにも手につかなかったが、悲しさを紛らわすため、５年前から絵を描きはじめた。





こちらもその頃に描いた、息子のゆうき君。さっきの絵からすこし成長している。





こちらももちろんゆうき君。そして、それを真剣に眺めるマスターさん。
とにかくゆうき君を描いて描いて描きまくって、気持ちを静めていったのだとか。そのうち、描くこと自体が面白くなってきて、ゆうき君以外を描き始めるようになり、次第に板の上だけじゃあ飽き足らず、店の壁にまでキャンバスを広げていったのだとか。
「最近は、自分が好きなことを、なんでもかんでも描いてるんだ！」と元気マンマンで喋っていた。うーむ、そういう経緯があったのか！





その話しを踏まえて、よくよく外壁を眺めてみると

天使がもってるお花のなかに「ゆ　う　き」の３文字

があるではないか！





そのすぐ横には

「愛する苦しみ　愛される倖せ」

と、文脈を知っていると、とてつもなく重たい箴言が‥。





さらに、先ほどはYOUTUBEに目がいって気づかなかったが、左側をよーく見ると

ゆうき珈琲店

としっかり記載されているのだ！
す、凄いヘビーだ。情念がこもっている‥。
そう、この店は、店長さんの人生そのものを描いているのだ！




●明かされるYOUTUBEの謎



当初、無秩序におもえた、壁に描かれた単語たちには、１つ１つストーリーがあったのだ。けっしてデタラメに描いてるわけじゃない。気になるものをシラミ潰しに説明してもらった。

まずは、謎の筆頭YOUTUBE。
これは、つい先日お店を気にいった方が現れ、マスターの身の上話しを録画。YOUTUBEにアップしてくれた記念に「YOUTUBE」と書いたんだとか。


↑
これがYOUTUBEの正体。





店内には大きな龍の絵があるのだが、口元になぜか名刺が貼られている。
「なんですか、これ？」と尋ねたところ、この方は、食べログに一件目のレビューをつけてくれた人なんだって。これまた嬉しくって、名刺を貼り付けたうえ、看板に「食べログ」と追記したそうだ。





「雷光昇龍　神話かたれば」という謎のセンテンスは、眠っているとき、頭の中にカタカナで浮かんできたワードだと言う。





店名と勘違いしそうで、紛らわしかった「ナイトパブ青い城」は、昔マスターが行きつけだったパブの名前なんだって。





極めつけはこちら。
テレビのビックダディを見てたら楽しくって、翌日「ビッグダディ」と書いちゃったそうだ。


‥もう、なんだって有りなんだな！


マスターの過去、そして、好きなもの。
彼の思考が、すべてダダ漏れになっているのが、この怪しげでとりとめのないアートの正体だったのである！「パブレスト百万ドル」はマスターの脳内を具現化したスポットなのだ！
小１時間、マスターの作品解説を受け、心の底から「すげえや、この店！」と心酔した。




●サービスはまだ終わりじゃなかった



そうこうするうちに良いお時間。お会計を済ませ、店を出ようとしたところ「このあと、どっか観光するの？」と問われた。
「ちょっと国宝の犬山城を見てこうかと。」と答えたところ、なんと、車で送ってくれた。





さらに「お土産ね」と缶コーヒーまで与えてくれる始末！優しい‥、優しすぎる！愛される倖せ！
こんだけされて、この店のファンにならない人がいますか。いや、いない。

どうやら、つい先日「ナニコレ珍百景」で取り上げられたそうで、お客さんもジワジワ増えてるらしい。おーっ、自分のことのように嬉しいぞー！ほんと、ここ、むっちゃくちゃのぎっちょんぎっちょんにオススメなんで、名古屋行く機会あったらぜひに！ぜひに！立ち寄ってみてください！桃太郎神社と併せて巡れば、大満足の一日が送れまっせ！







■「パブレスト百万ドル」の情報■
オススメ度：★★★★★
アクセス：犬山線「犬山遊園駅」徒歩２分
住所：愛知県犬山市犬山瑞泉寺３１－１
電話番号：０５６８－６２－３３３６
営業時間：１０時～１７時
定休日：不定休
予算：ナポリタンスパゲッティ７８０円
関連サイト：食べログ