
イタコの口寄せをしてもらおうと、青森の恐山例大祭(7月20日~24日)に行ってまいりました。
朝7時から11時間並んだわ。

事あるごとに耳にするけど実際見たことないものランキングを作ったならば、間違いなく上位に食い込むのが「イタコ」という存在であろう。
青森県の恐山では、いまなお、夏の例大祭(7月20日~24日)と秋詣り(10月上旬)の年2回だけ、イタコがやってきて口寄せをしてくれるのだという。口寄せというのは、霊を憑依させ、その言葉をいただくイタコの技術。
ぜひこの目で間近に見てみたいと、例大祭の日を狙って、わざわざ青森まで行ってまいりました。といっても1年前の2013年なんですけどね、行ったの。タラタラしてたら1年寝かせてしまいました、この記事。
恐山への最寄り駅は、下北駅。ネットで仕入れた事前情報によれば、口寄せは毎年むちゃくちゃ行列が出来るとのこと。「ならば、朝一で行ったろ」と前夜に駅前のカラオケボックスに泊まり、始発のバスで恐山へと向かった。

恐山へは下北駅からバスで40分ぐらい。山道をグネグネと登っていく。ほとんどの乗客が恐山行きのため、社内アナウンスで恐山の歴史が淡々と語られる。水子供養で有名な霊場ということで、童謡が静かに流れたりするのだが、それがまたなんとも物悲しい。

バスのチケット裏には「幼児和讃」というタイトルの、賽の河原にかんする歌詞が書かれていた。
●いたるところで風車が回っている

山頂の恐山菩提寺に到着。
寺山修司の映画「田園に死す」のイメージしかなかったから、恐山っておどろおどろしい空気が漂ってるんだろうな、と思ってたんだけど全然そんなことない。むしろ、こんなにキレイで開放感ある寺も珍しいなってぐらい、清々しい雰囲気だった。



上の写真たちは、あの世を再現した道なのだが、妙に清涼感あふれる光景だ。

「賽の河原」と銘打たれたエリアには、石が積まれている。
子どもが詰んだ石を、鬼が崩しちゃうんだよね。

賽の河原を抜けたら、パーッと広がる白い砂浜が極楽浜だ。宇曽利山湖を囲んでいる。

水子供養とあって、やはり地蔵菩薩が多い。

風車は400円で販売している。


境内のいたるところに風車とお菓子がお供えされている。風車はお花のかわりだという。


▲霊場アイス 200円
「霊場アイス」なる昔ながらのアイスクリームも売られていた。秋田の国道沿いでよく見かけるババヘラアイスに似た、素朴な甘みのシャリシャリしたアイスだ。

恐山は火山なので、温泉も湧いている。昔から湯治の場所としても利用されていて、境内には木造でいい味出してる温泉施設もある。男女別棟。タダで入湯できるよ。

通路の脇には、温泉が流れる溝が掘られているので、境内のどこにいても硫黄の匂いがほんのり鼻をつく。

亜硫酸ガスも噴出しているとのことで、ロウソクや線香が使えるのは所定の場所だけ。引火する危険があるからね。
●イタコの口寄せに11時間並んだけれど・・

さて、お目当てのイタコの口寄せですよ。
朝一のバスに乗り込んで朝7時に到着したんだから、当然一番乗りかと思いきや、もう既に長蛇の列が出来上がっていたのだ!ざっと80人はいるかな。そのほとんどが65歳オーバーのお姉さんたち。なんでもみなさん、恐山の宿坊に泊まったそうで、朝6時から並んでるんだって。
くそ~、ミラコスタ泊まるとちょっと早くディズニーに入園できるみたいな裏ワザがあったのかよ~。カラオケに泊まるぐらいなら、宿坊泊まれば良かった・・・。

イタコさんは、このキャンプで使う簡易テントの中で口寄せをしている。お値段は口寄せ1回5000円。
十数年前は10人以上いたイタコさんも、年々少なくなっていき、この年(2013年)はわずか2人だけ。1人はいかにもな雰囲気のお婆ちゃんなのだが、もう1人はかなりお若い女性。おそらく30代後半といったところだろうか。どことなく新橋の最狂居酒屋「かがや」の店長さんに似たオーラとお顔立ちで、服装は意外なことにトレーナーにジーンズ。まるで近くの西友にでも買い物に行くような、ラフないでたちであった。
長い待ち時間への覚悟を決め、お若いイタコさんの行列に並ぶ。
並んでからしばらくして気づいたのだが、とにもかくにも、まるで行列が減ってかない。というのも、霊を憑依させ話しをする流れが1回あたり15分かかるうえに、お金を払えば、1人で3~4人分口寄せすることも可能だから。つまり、下手すりゃ、1人さばくのに1時間かかっちゃうわけ。
なにも遮るものがないとこで、真夏の日差しをもろに受けながら、長時間待ち続けるのはかなりの苦行。何度も来てる常連のお婆ちゃんたちは、そんなことは折込み済みで、日傘にサンバイザー、そして折りたたみの椅子を取りだし、準備万全だ。
厳しい状況下で、何時間も一緒にいるので、次第に回りのお婆ちゃんたちと打ち解けてくる。彼女たちにしてみれば、僕は息子か孫とおなじ年頃。山ほどアメやパンを分け与えてくれた。
並びはじめた当初は「口寄せってどうなのかしらね~。嘘くさいわよね~」などと軽口を叩いていたので、やはり僕と同じ疑心暗鬼のスタンス、好奇心からの参加なのかと思っていたのだが、心を許し、じょじょに深い話しをしていくにつれ、事態が飲み込めてきた。先立たれた旦那さんや両親を降ろしたいという人はまれで、ほとんどの方は、早くして亡くなったお子さんを口寄せしてもらい「一言でも話したい」とおっしゃっていた。
「誰を口寄せしてもらうか」という切り口から、それぞれが身の上話をはじめる。どこにでもいる普通の婆ちゃんに見えて、それぞれがそれぞれに、相当しんどい過去を経ていて、「ばあちゃんって強いなあ」としみじみ感じた。
なにも遮るものがないとこで、真夏の日差しをもろに受けながら、長時間待ち続けるのはかなりの苦行。何度も来てる常連のお婆ちゃんたちは、そんなことは折込み済みで、日傘にサンバイザー、そして折りたたみの椅子を取りだし、準備万全だ。
厳しい状況下で、何時間も一緒にいるので、次第に回りのお婆ちゃんたちと打ち解けてくる。彼女たちにしてみれば、僕は息子か孫とおなじ年頃。山ほどアメやパンを分け与えてくれた。
並びはじめた当初は「口寄せってどうなのかしらね~。嘘くさいわよね~」などと軽口を叩いていたので、やはり僕と同じ疑心暗鬼のスタンス、好奇心からの参加なのかと思っていたのだが、心を許し、じょじょに深い話しをしていくにつれ、事態が飲み込めてきた。先立たれた旦那さんや両親を降ろしたいという人はまれで、ほとんどの方は、早くして亡くなったお子さんを口寄せしてもらい「一言でも話したい」とおっしゃっていた。
「誰を口寄せしてもらうか」という切り口から、それぞれが身の上話をはじめる。どこにでもいる普通の婆ちゃんに見えて、それぞれがそれぞれに、相当しんどい過去を経ていて、「ばあちゃんって強いなあ」としみじみ感じた。

気が付けば、時刻は午後1時。
待ち時間は、夏休みのスプラッシュマウンテンを遥かに上回る6時間超え。みんな体力が限界に近づいているため、列に並ぶ人たちと示し合わせ、ローテーションで休憩を取ることに。畳敷きの休憩所は、疲れ果てた爺ちゃん婆ちゃんのたまり場と化し、横になってグーグー寝ていた。

▲並びはじめて7時間、13時ころの列。まだ20人はいる。
「午前中にはやれるだろう」とタカをくくっていたのだけど、大甘な予想でしたね。
18時閉門にもかかわらず、17時の時点でまだ前方に5~6人いる状態。並んでもギリギリなうえに、なにより僕なんかで時間を使ってしまうより、本気で口寄せしたい人が1人でも多くやってもらったほうがいいだろうと判断し、諦めて、列からそれることに。
そう、11時間近く並んだけど、体験できなかったのです。無念。
18時閉門にもかかわらず、17時の時点でまだ前方に5~6人いる状態。並んでもギリギリなうえに、なにより僕なんかで時間を使ってしまうより、本気で口寄せしたい人が1人でも多くやってもらったほうがいいだろうと判断し、諦めて、列からそれることに。
そう、11時間近く並んだけど、体験できなかったのです。無念。
その代わり、仲良くなった婆ちゃん数人の口寄せを、一緒に聞かせてもらった。
イタコさんの口寄せの手順は、おおむね以下のとおり。
・まず、口寄せしたい人の名前と生年月日、亡くなった日付を紙に書く
↓
・念仏(呪文?)のようなものを3分ほど唱える
↓
・憑依成功。
で、憑依したら、会話形式じゃあなくって、イタコさんが一方的に5~6分間喋り続けるかんじ。口寄せの対象が男性であれ、女性であれ、声色は変わらない。
個人的な事実に突っ込むでもなく「遠いとこ、よう来た」「先に逝ってしまって申し訳ない」「なにかあれば夢で知らせる」「みんなで力あわせて頑張れ」などの定番フレーズを繰り返していた。そのほかは「5月に災難が起こりそうだから気をつけなさい」「人間関係で悩みがあるでしょう」といった占い的な要素も。
最後に「なにか聞きたいことはあるかね?」と1回だけQ&Aのラリーをして、口寄せは終了。
想像していたものとはだいぶ形が違ったが、こういう心の癒し方もあるのだろうなあと合点がいった。
・まず、口寄せしたい人の名前と生年月日、亡くなった日付を紙に書く
↓
・念仏(呪文?)のようなものを3分ほど唱える
↓
・憑依成功。
で、憑依したら、会話形式じゃあなくって、イタコさんが一方的に5~6分間喋り続けるかんじ。口寄せの対象が男性であれ、女性であれ、声色は変わらない。
個人的な事実に突っ込むでもなく「遠いとこ、よう来た」「先に逝ってしまって申し訳ない」「なにかあれば夢で知らせる」「みんなで力あわせて頑張れ」などの定番フレーズを繰り返していた。そのほかは「5月に災難が起こりそうだから気をつけなさい」「人間関係で悩みがあるでしょう」といった占い的な要素も。
最後に「なにか聞きたいことはあるかね?」と1回だけQ&Aのラリーをして、口寄せは終了。
想像していたものとはだいぶ形が違ったが、こういう心の癒し方もあるのだろうなあと合点がいった。
夏の例大祭はもう終わってしまったので、興味がある方は10月上旬の秋詣りに参加してはいかがだろうか。
早めに予約して、恐山宿坊(1泊12000円)で前のり宿泊するのがオススメです。
早めに予約して、恐山宿坊(1泊12000円)で前のり宿泊するのがオススメです。
●「イタコと恐山をもっと知る本」オススメ3選
恐山におとずれて、重たくも清々しい、その存在がとても気にいったし気になった。
イタコと恐山をもっと知るための足がかりに本をあれこれ読んだので、おすすめを3冊ご紹介いたします。
【1】恐山: 死者のいる場所

まず圧倒的におすすめなのがこちら。
恐山の住職代理・南直哉さんが書いている本「恐山」です。
恐山で出会った人々とのエピソードをきっかけに
●自分の死と他者の死は異なるもの
●生きている者の側にこそ「死」はある
などなど「死ぬってなんなの?」という素朴にして大きな問いにこたえていきます。
たとえばこんな感じ。
「おい、おまえ」「はい」「おまえは人が死んだらどこへ行くか知っているか」と唐突に老師が訊いてきました。
(中略)
「人が死ぬとな、」
「はい」
「その人が愛したもののところへ行く」
老師はそう言いました。
「人が人を愛したんだったら、その愛した者のところへ行く。仕事を愛したんだったら、その仕事の中へ入っていくんだ。だから、人は思い出そうと意識しなくても、死んだ人のことを思い出すだろう。入っていくからだ」
題材こそ哲学的なのですが語り口は軽妙にして落語的。
おもしろい一冊です。
【2】最後のイタコ

イタコさんの日常を知るならこの本「最後のイタコ」ですね。
イタコの高齢化がすすみ、その人数は年々少なくなっています。いわば絶滅危惧種。
著者の松田広子さんは1972年生まれ。まだ40代とお若いながら、高校生で弟子入りしたのでキャリアは20年以上。
●高校のころ、つきあいを避けたい不良グループの誘いは「イタコの修行で忙しいから」と断ってた。ピタッと誘いがやんだ。
●20代のころはバンドを結成し、本格的にライブ活動をやっていた
●口寄せをした旦那に「浮気してたでしょ、あんた!」とケンカをはじめる人もいる
●イタコは村のカウンセラー的存在
などなど。
イタコの私生活から口寄せエピソードまで、当人だからこそ語れる情報もりだくさん。
「なるほど、村のカウンセラー的存在なのか」と納得感がありますね。
こちらの松田さん、自宅での口寄せをいつでもおこなっているそうなので
「例大祭に行けないけど口寄せしたい!」というかたはホームページをごらんくださいな。
【3】山本まゆりの八戸イタコ紀行

こちら「八戸イタコ紀行」はマンガです。
「最後のイタコ」の著者、松田広子さんのエピソードや口寄せのようすをマンガで紹介しています。
1話約20ページで完結するので、さくっと読めちゃいます。
■「恐山」の情報■
オススメ度:★★★★☆
アクセス:JR「下北駅」からバスで40分
住所:青森県むつ市田名部宇曽利山3-2
電話番号:恐山寺務所 0175-22-3825
営業時間:6:00~18:00
定休日:5月1日~10月31日以外は閉山している
予算:入山料500円
関連サイト:下北ナビ