kaohame-1

顔ハメ看板。
どんな観光地にもたいてい置かれているので、だれしも1度や2度はハマったことがあるだろう。

今回お話しをうかがったのは、十数年にわたって顔ハメ看板にハマりつづけている塩谷朋之さん。
ハマった総数2800枚以上。著書『顔ハメ看板ハマり道』も出版されている。
「顔ハメ看板に優劣はない。穴があいててくれて、ありがとう」と感謝をかたる塩谷さんに、顔ハメについてあれこれ疑問をぶつけてみた。
 







塩谷さんのTwitterは顔ハメで埋めつくされている


顔ハメ看板。
どんな観光地にもたいてい置かれているので、だれしも1度や2度はハマったことがあるだろう。
旅のテンションでキャッキャ言いながらハマるのは楽しいものだ。

今回は『顔ハメ看板にハマりつづける男』
◎顔ハメ看板ニスト 塩谷朋之さん
にお話しをうかがった。

ハマりつづけて十数年、ハマった総数2800枚。
2009年より北海道の夏祭りでおこなわれる顔ハメ看板大会の審査員もつとめ、2015年には著作「顔ハメ看板ハマリ道」を出版している。
「顔ハメ看板に優劣はない。穴があいててくれて、ありがとう」と感謝の念を語る塩谷さんに、顔ハメについてあれこれ疑問をぶつけてみた。





●北朝鮮にも顔ハメ看板はある!


kaohame-1
▲顔ハメ看板がある居酒屋でインタビューした


-いままで何枚くらいハマってるんですか?

塩谷さん(以下、塩):2800枚くらいです。


-2800!!

塩:まだまだ少ないなーとおもいますね。やっぱり万はいきたい。耳にくる響きがちがう。
年間400枚ほどハマっておりますので、あと20年くらいかかります。


-顔ハメ看板、1万個もありますか?

塩:ありますね。数でいえば圧倒的に日本がおおいですけど、海外にもありますし。北朝鮮にもあるぐらいです。


-え、北朝鮮に?なんの顔ハメですか?

塩:
兵隊ですね。お金を貯めてハマりにいこうとおもってたんですが、外務省も渡航を止めてますし、奥さんにも止められてます。


-塩谷さんの気持ちもわかりますが、まあ止めますよね

塩:歴史上、いまが一番顔ハメのおおい時代なんですね。
観光地だけではなくて、個人で顔ハメをおく店も増えてますから。


-SNSでの拡散狙いですかね

塩:
それはあるでしょうね。
顔ハメをはじめた10年前は個人サイトやブログを参考に探してましたが、3~4年前からTwitterがメインの情報源になりましたから。
ここ最近はインスタも主力ですね。


-どんな検索ワードで調べてるんですか?

塩:顔ハメ、顔出し、顔ヌキですね。
「顔ハメ」「顔出し」は毎日検索しなければいけません。
「顔ヌキ」は少数派ですが使ってるかたもいるので、2週間に1度は調べないといけません。


-調べなければいけない。義務なんですね

塩:ただ注意しなければいけないのは「顔出し看板」というワードを調べると、大人のお店の看板もでてくるんですよ。
勤めてる女の子の顔がのってる看板を、その界隈では顔出し看板と呼んでるそうですね。
「顔ヌキ」もそういう言葉の使われ方もされてまして、美少女の顔がやたらでてくる。
顔だけをつかって、そういう行為することを顔ヌキと呼ぶらしいんです。

-帰ったら検索してみます



kaohame-2
▲インタビューしたお店で、海女さんの顔ハメをする塩谷さん

「店員さん、すごく見てましたけどいつものことですか?」とたずねたら、「ハマってるときは周りを見てないので、気づいてませんでした」とのこと。
ハマるときは全力。集中力のすべてを顔ハメに注ぐ。





●お金がないころ、ストリートビューで消防署を見てまわってた


塩:最近は友だちからのタレコミも重要な情報源ですね。
「知ってるとおもうけど、どこそこに顔ハメあったよ」と教えてくれます。


-知ってるとおもうけど、って枕言葉がつくんですね。

塩:じっさい知ってる率は高くて、90~95%は知ってますね。
人気の観光地に行くから、たいてい誰かがSNSで報告済みなんです。


-うわ、ほんとに知ってる!毎日SNSを検索してるわけですもんね

塩:でも「ありがとうございます」って感謝するのがすごく重要。
「知ってるよ」って流しちゃうと、教えてくれなくなっちゃうので。


-あ~、どうせ知ってるだろうし無駄かって。

塩:いつからあるのかわからないようなオールドスクールなやつを教えてもらうと嬉しいですね。消防署にある手書きのやつみたいな。あまりSNSにあがってこないので。


-そういうのオールドスクールっていうんですね。消防署って顔ハメあるんですか?

塩:防災フェアとかで使うのでけっこうあるんです。5~6軒に1軒はありますね。
会社に勤めたてでお金がなかったころは、ストリートビューで全国の消防署を見てまわってましたよ。


-そんなにあるんですか!意外と気づかないもんですね
 
塩:意識しないと穴はあかないんです。
倉庫にしまってあるものをわざわざ出してくれたり、消防署は優しいですね。「出動時以外ならお出しします!」っておっしゃってました。
とくに親切なところは「いまからハメに行く人がいるから出しといて」と管轄に電話までしてくれますから。


-おお、優しい

塩:消防車にのって撮影もさせてくれるみたいなんです。 たまに「消防車にも乗りますか?」と聞かれるんですよ。
ほんとうはすぐにでも次の顔ハメ看板に向かって、1つでもおおくハマりたいんですが、失礼がないよう消防車にも乗りますね。


-顔だけハメて、消防車を断るのは忍びないですもんね

塩:2つ以上の穴があいてるものは、消防署員さんと一緒にハマるんです。十中八九ハマってくれます。
ただ、とある署で「これは市民のための物ですので」とハマることをかたくなに断られたこともあります。


-市民のための穴だと 

塩:はじめての経験ですので、大切に胸に刻みました。 






有給取得の理由にちゃんと「顔ハメ」と書く


顔ハメ看板ハマリ道
▲著作「顔ハメ看板ハマリ道」


-著書「顔ハメ看板ハマり道」に書かれてましたが、会社の上司と顔ハメの旅に行ってるんですよね?

塩:そうです。顔ハメがべつに好きな人ではないんですが、一緒に四国半周しました。


-顔ハメだけの4日間ですよね?よく付き合ってくれますね。

塩:ご飯は上司に決めてもらいましたが、観光はしてないですね。
だれかと一緒に顔ハメにいくときは「こんなところばっかりで楽しんでないよな……」とは考えないようにしてます。
「ここ寄りたい」という相手の意見に耳をかたむけ、妥協して行ってしまうと、どちらも中途半端になるんですよ。
顔ハメも中途半端、観光も中途半端ではだれも幸せにならない。


-心を鬼にして顔ハメに徹してるわけですか。

塩:上司の立ちよりたいところは無視するしかないんです。


-普段どんなお仕事されてるんですか?

塩:メーカーの総務・経理をやってます。10年ぐらい勤めてます。


-社内の人にも、顔ハメのことはカミングアウトしてるわけですね

塩:してます。有給の取得理由も「私用」ではなく、ちゃんと「顔ハメ」と書いてます。嘘はつかないようにしてます。


-なにか言われないんですか?

塩:とくになにも。そういうと「良い会社ですね」って返されるんですけど、そもそも有給理由に「顔ハメ」って書いたことないんですよ、誰も。
書いたら、どの会社でもあんがい認めてもらえるものです。


-チャレンジすらしてないだろと

塩:私用、私用、私用とならんでるより、なにをするのか書いたほうが面白いですし。





●知らない人と100回はハマってます。おじさんともハマってます



▲顔乗せタイプの看板


-著書を読んで驚いたんですが、顔ハメってすごくいろんな形状があるんですね。首から上がなくて顔をのっけるやつとか、アゴだけ出す猪木のやつとか。
塩谷さんはどこまでを顔ハメ看板としてるんですか?
 
塩:あるとき「顔をハメるためにあるもの」が顔ハメだと気づいたんです。
はじめは撮ってたけど「違うな」とおもって止めたのが、電車の窓から覗くやつです。


04f1b660-s (1)
▲こういうやつ

3年間ぐらいはいちおう撮ってたんですけど「俺はこれでいいのかな…」とずっと違和感があって。
あれは自分が主役で、ハメることが主じゃない。あくまで記念撮影のためのパネルですね。


-たしかに人が主役ですね、あれは

塩:そういう観点でいくと最近増えてる「facebookみたいなパネル」も顔ハメじゃないですね。


-あるある!「いいね3万」とか書かれてるやつ。

:記念撮影がメインなのか、ハマることがメインなのか。そこがポイントです。






●顔ハメはコミュニケーションツール!地元民と交流が生まれる


▲2人用の顔ハメ


▲3人用の顔ハメ


塩:2人用、3人用の顔ハメもあるんです。穴が複数あいてるものは、なるべくすべて穴を埋めたい。
近くにいる人にお願いすると、8割はハマってくれます。
顔ハメをつうじて、地元民と交流が生まれるんですよ。


-会話のきっかけになりますね

塩:おばちゃんだと「え~、もっと若い人のがいいでしょ!」って言われます。
正直ハマれれば誰でもいいんですけど、そこは「お姉さんがいいんです!」って口説きますよ。


-手練れですねえ。

塩:もう知らない人と100回ぐらいハマってますからね。おじさんともけっこうハマってますよ。


-なんだか語弊のある表現ですが

塩:岩手の遠野でおばちゃんに頼んだら「旅先ではわたしも撮るけど、地元ではちょっと……」と断られました。「まあまあ、いいから」で結局ハマってもらいましたけど。


-たしかに旅先のテンションじゃなきゃハマりづらいですね。

塩:これだけいろんな人とハマってるのに、いままで「その写真ちょうだい」といわれたことは一回もない……。


-一回もですか。

塩:あ、一回だけあります!
一緒にハマってくれた女の人が「それ送ってもらえますか」と。「ここにメールくれたら送りますよ」とアドレス教えたんですが、結局メール来てないので、そういう意味ではゼロですが。


-友だちにも「ちょうだい」って言われませんか?

塩:友だちの場合は言われなくても送りつけます。





●酔っぱらってハマるのは礼を欠く


-ハマるときの塩谷さんの無表情、すごくいいですよね。絶妙な顔です。

塩:最初のころ、面白いときは笑ってたんですよ。
でも、自分はどうでもよくて、看板が主役ですから。あんまり主張が強くならないよう、ああいう顔になりましたね。


-脇役に徹するための無表情だったんですか

塩:わたしの子どもは2歳半で、一緒によくハマってるんですね。
昔は顔ハメに泣いたり笑ったりしてたんです。最初は怖がって泣きましたし、慣れてきたら楽しくて笑うようになった。
でも、いまでは「あ、顔ハメ!」と駆けだして、ハマった瞬間、死んだ目になってます。


-すごい、親のやり方を学んでる!
 
塩:いいことなのか悪いことなのか


-塩谷さん、普段メガネされてますよね。ハマるときだけ、メガネを取るのも意味があるんですか? 

塩:「顔ハメ看板に真摯に向き合うってなんだろうな」ってかんがえたんですよ。
そうしたら、やっぱりメガネは取るのが敬意ではないかと。


-そこまで考えますか

塩:松澤さん(インタビュアー)、さきほど「いきなり顔ハメするんですね」とおっしゃいましたよね。
たしかに注文などを済ませて、ちょっと飲んで盛りあがってからハマるほうが流れとしては良いとおもうんですが、やっぱり酔っぱらってからハマるのは敬意がないかなと。

-うお、顔ハメに礼を尽くしてますね!


kaohame-6
▲三脚をたてる位置を真剣に微調整している





●ハマれないこともふくめて顔ハメ


-塩谷さんでもハマりにくい看板ってあるんですか?




塩:ハマりにくいというか、新宿ロボットレストランの顔ハメは、わたしの身長でも穴がギリギリでした。海外の人向けに作られてるので穴が高い位置にあるんですね。 
 

-あ~、あそこ海外客すごく多いですからね!

塩:
あとは、すっごく胴体の部分が細い顔ハメとか。体をくねらせて、はみでないようにします。
そういう上手くハマるのが難しいもののほうが達成感ありますね。


-ハマれないものもありますか?

塩:よくありますね。見えてはいるけど、閉まったシャッターの向こう側に置かれてるとか。
イベントものの顔ハメもハマれないときがあります。「あれ、七五三のときだけなのよ」「でも、旅の途中なんですよね…」「また来年きたらいいよ」みたいなやりとりでハマれなかったり。


-物理的にハマれなかったり、時期的にハマれなかったり

塩:倉庫に閉まわれちゃってることもよくあるんです。
顔ハメを撮りつづけてることを伝えたら「じゃあ、今から出すか!」と、1時間以上かけて車で運んでくれたこともあります。
自分が有名なら「だれだれさんがハマりました」って宣伝になるでしょうけど、それもないですから。
100%のボランティア精神でハマらせてくれる。顔ハメをつうじて人の温かさに触れてます。


-顔ハメってもっと孤独な行為なのかとおもってました

塩:
ハマれず悲しいこともしょっちゅうありますけどね。
ハマれないこともふくめて顔ハメだよな、とおもってます。関われないことも顔ハメなんですよ。


-深まりすぎて哲学になってますね

塩:好きすぎて何をされてもいい、という心境です。
年に数回ほどですが、三脚を立てると「ご遠慮ください!」と警備員に止められることがあります。
「じゃあ、撮影してもらっていいですか?」とたずねると、それも「できません」と。
そんなとき「やっぱり顔ハメっていいなあ」っておもうんです。
 

-え?止められてるのに?

塩:顔ハメって、のほほんとしたデザインが多いじゃないですか。
ハマって撮るという行為も、のほほんとしてますし。
でも、それだけじゃない。 警備員に止められるようなハードな一面もあるんですよ。 
 
-ギャップがゾクゾクくると。顔ハメにかかわるすべての状況を受け入れてますね
 
 
 


●穴があいててくれて、ありがとう。

-むかしからコレクター気質があったんですか?

塩:ありましたね、少年のころはテレカを集めてました。
でも、中高生のころに「こんなの集めても意味ないかも」とおもっちゃったんですよね。
親のお土産がテレホンカードだと「ちくしょう!またテレカかよ!」と荒れましたね。


-顔ハメには「こんなの集めても意味ないかも」とおもわないんですか?

塩:顔ハメはすぐに無くなっちゃうからこそ、こんなに情熱を持ててるんでしょうね。
本格的にハマりだして10年ぐらいたちますけど、どんどん面白くなってます。
富士山はいつまでもあるから「いつか登ろう」って先送りしますけど、顔ハメは今ハマらないと無くなりますから。


-記録に残してるわけですね

塩:目を離したスキにすぐ無くなるんです。ほんとうに気が抜けない。
とあるアウトレットでは「妻と合流したあとに撮ろう」とぐるっと施設を一周して、30分後に戻ったら、解体してました。


-え、わずか30分の隙に!?

塩:ギリギリ間に合って、解体してる人と一緒にハマったんですけど。 
このお店でも最初に撮ったのは、酔ってハマるのは失礼というのもありますけど、その数分のあいだにも片づけられてしまうかもしれないんです。
じっさいSNSにあがってた写真では店の真ん中にあったのに、たった2週間で端っこに追いやられてましたから。


-せっかく作ったのに片づけちゃうんですか

塩:
「置いたはいいけど邪魔だった」というパターンがあるんですよ。
顔ハメ単体だと薄いから平気ですけど、撮る人とセットになってはじめて邪魔だと気づくんです。


-なるほど!

塩:期間限定イベントの顔ハメは、期間中なのにしまっちゃうこともある。
スヌーピーのイベントでも、行ったらなかったですから。
「すいません、顔ハメがあるはずなのですが」とスタッフにたずねたら「きょうは着ぐるみのスヌーピーが来るからしまってる」と。
あくまで顔ハメは本物の廉価版なんです。


-悲しいさだめですね

塩:池袋サンシャインでやってたグレートバリアリーフ展でもそうです。
本物の人魚がいるときは後ろ向きにされてて、ハマれないようにされてました。
そうやって粗雑に扱われてる顔ハメをみると「ハマってあげなきゃ」って強くおもいますね。
クモの巣なんか張ってると「お待たせ」ってかんじです。


-ばりばりハメられてる人気のものより、ちょっと寂れたやつのがグッとくるんですか?

塩:正直、最初のころはそういう顔ハメのほうが心動かされてました。
でも、最近は違いますね。
穴があいててくれて、ありがとう。そういう気持ちです。


-とうとうそんな境地まで達しましたか

塩:
「どういう顔ハメがいいですか」とコメントを求められたら「フィット感が重要ですね」とか答えちゃいますけど、本当は優劣なんてないんです。
穴があいててありがとう。そういうことです。


-ただただ感謝。それだけ顔ハメを愛したら、自分で作りたくはならないですか?

塩:イベント用につくったオリジナルの顔ハメは何枚か持ってますけど、自分で作りたいやつはぜんぜんないんです。
顔ハメには、自分の想像を超えてほしいから。





--------

■塩谷朋之さん■

顔ハメ看板ニスト 。
仕事のかたわらハマれる看板を求めて出かける日々。
ハマった看板は2000枚以上。北海道でおこなわれる顔ハメ看板大会の審査員。

【著書】顔ハメ看板ハマり道
【Twitter】@shioya20