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現役猟師に山での不思議体験を聞いてきた。
「動物の神隠し」「視界がジャックされる場所」「地図にない謎の空き地」など世にも奇妙なエピソードを話してくれた。




『あなたの知らない都市伝説の現場ガイドツアー』
をガイドしていただいた、都市ボーイズさんから「最近面白いかたと知り合ったんですよ!」と、猟師さんを紹介いただいた。
昼間サラリーマンをしている週末猟師で「ななふし」というお名前。
都市ボーイズさんの専門ジャンルである都市伝説やオカルトなど、「山でおこった不思議な話し」をいくつかお持ちだという。



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▲スーツであらわれた猟師のななふしさん。本業はサラリーマンだ。  

私も、不思議な話には目のない性分。
ぜひとも詳しくお話ししたいと、都内某所のサンマルクカフェでお会いいただいた。
猟師という響きから連想されるワイルドさからかけ離れた、人あたりの優しいシュッとした男性であった。
見た目のイメージは都会派なのだが、ひとたび話してみると、聞いたこともない山のエピソードがぽろぽろと飛びだすのだった……      




●ハイキングがきっかけで、猟師になった

  ななふしさんとお呼びすればいいのですか?  

ななふし(以下、な):
はい、虫のななふしが好きなので、ななふしと名乗ってます。
   


―サラリーマンのかたわら、猟師をされてるんですよね。そもそもどういうきっかけで猟師になったんですか?
 

な:
平日はフルタイムで働いて、土日に山に入ってます。

きっかけは、山の散歩ですね。もともとハイキングが好きで、低山をまわってました。山道を歩くばかり、頂上を目指すばかりだったんですけど、山ってすごく奥行がありますから。
360度、山道のない山の日常を見てみたかったんです。山のない、比較的都会な場所で育ちましたから。    


―あえて、道からそれてみたい  

な:
山は生命の集合体ですから、そこで営まれているものって何なのかなって単純な興味があった。
生の逆には当然死がありますから、命のやり取りも スキルとして学んで、生命を両面から見たかったんです。    


―いつ猟師になったんですか?
 

な:
山に入ったのは8年前で、猟師免許をとったのは3年前です。

解体は免許がなくてもできるので、それより前から猟師さんの講習をうけてやってましたね。    


―どんなものを解体するんですか?
 

な:
鹿、イノシシ、ハクビシン、タヌキ、キツネ、ツキノワグマの小熊、それと鴨やキジなんかも獲ったことがあります。

鹿とかそういう大きいのですと、1人でやったら解体するのに3~4時間かかるんですよ。
それだけ時間がかかれば、ナイフさばきとか1回ですごく勉強できるんで。ウサギや鳥だとすぐ終わっちゃうんで、上達の効率を考えて、大きいものでやってました。



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▲解体の体験会にて。約60kgのメス鹿を解体する    


―はじめて解体するとき、抵抗はなかったんですか?  

な:
おもったよりもグロくないな、という感想でした。
解体の体験会では、内臓が全部とってあって、皮と肉がついてる状態でやるんですが、猟師デビューすると、 内臓をとるところからやる。あれがね、臭いんですよ。    


―どんな臭いですか?  

な:
胃液とか体液の匂いがするんです。あと、血の匂い。嘔吐したさいの臭いに近いかもしれません。 第一のハードルはそれですね、内臓を抜いて卒倒しないか。    


―倒れちゃう人もいるんですか?  

な:
いますいます、全然いますよ。 臭いが凄すぎて気絶してしまったから、猟師を諦めたという人もいます。    


―まさか臭いがハードルだなんて思ってもみませんでした。  

な:
とにかく臭い。 皮膜があるとはいえ、消化器官ですから臭いので、もし、ばらす時にしくじって、背中やおなかの被膜をやぶっちゃうと、 消化液とか出てきますから、もっと臭いんです。
それを破かないよう、つるんと取るような解体をするんです。    


―解体、重要ですね。  

な:
臭いだけじゃない。血や消化液は雑菌細菌いっぱいですから、お肉に触れるとそこ食べられないんですよ。そこから菌が入るんです。
動物は食べる物を消毒しないので、雑菌だらけ。動物は耐性備わってますが、人が食べると病気になります。    


―血って、そんなに危ないんですね。  

な:
だから、獲物をとって、まず先に血抜きをするんです。
ついさっきまで生きてた動物は、体温が上昇している身体を、まずは 川につけたりして冷やします。 そして、首の頚動脈を切って血抜きをして、 抜けきった頃に肉を解体する。
その手順を踏まないと、いい肉にならないんです。血に触れちゃうから。      



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 ▲血抜きをして、解体する  


―山のなかで全部やるんですか?  

な:
全部やっちゃいますよ、その場で。重すぎて持って帰れないんで、その場でさばくしかないです。    

―そんなに重いんですね  

な:
鹿はだいたい体重70キロとか。イノシシですと50~90キロ。
駆除をかねて狩っている人もいるので、そういう場合だと獲物の体にスプレーします。地域によっては、犬歯とかを抜いて、駆除の証明に市町村に渡すんです。    


―戦国時代みたいですね!  

な:
地域によって報酬は貰えるんです。鹿1匹6000円だとか、イノシシ1匹1万円だとか。    


―報酬狙いの猟師もいるんですか?  

な:
ほぼプラマイゼロなんで、それで生計立てようというのは無理ですね。
車走らせればガス代が出ますし、 弾代もあるし罠代もある。猟期も決まってますから、1年中やれることでもないですし。
その時点で職業として成り立ってないですよね。    


―猟師一本でやってる人っていないんですか  

な:
ほとんどいないです。現代ですとなんかしら兼業してます。    



 

●師匠は、1か月間電話をしつづけて口説いた

―解体など、猟師のテクニックを教わる先生がいるんですか?  

な:
師匠がいます。僕にとっては伝説的な人ですね。
   


―ネットで探してお願いしたんですか?
 

な:
もともとまったく別の一般開放している猟師さんの講座に申し込んだんですね。

でも、その方が所用で来れなくて、かわりに今の師匠が来たんですけど、ぶっきらぼうでやりたくないような感じでして。    


―ちょっと怖そうですね。
 

な:
ほかにも猟師さんが何名かいらして、山の中を散歩したんです。「こういうところに動物の足跡があるんですよ」とか教わりながら。

で、師匠がすごい早いんです、足跡ぱっと見ただけで「あっちにイノシシ何頭、まだ臭い残ってるからどのくらいの距離だよね」とかぶつぶつ言ってるんです。    


―瞬時にわかっちゃうんですか
 

な:
受講生に「今、どこに足跡ありますか?」って質問されたときに、ほかの猟師さんが詰まってしまったんですよね。「……正午過ぎで匂いもないし、足跡はありませんね」って。

でも、師匠は私の横で「足跡なんていっぱいあるだろう、ここ、あそこ」ってパッパ見つけて。
「ああ、弟子になるなら、この人だって」って決めました。 断られつづけたんですけど、1か月ぐらいずっと電話しましたね。電話をかけて、教えて欲しいと。    


―なんという熱さ!
 

な:
「猟師になりたいというよりも、あなたがどういうものの見方をして見えているのか、それを知りたい、それを教えてください」と口説きました。
猟師になりたいというより、その人自身に興味があった。    


―アプローチが届いてよかったですね。
猟師に新しくなる場合、そうやって師匠をたてて習うのが普通のルートなんですか?  

な:
そうですね。猟師の技術は、門外不出と言われてまして。

山菜取りとか縄張りがいちおうあるんです、この猟師はこの領域でやると。いい山菜採りのエリアがあったら、やっぱり言いたくないじゃないですか。外には発信しないんです。
だから、あんまり接したことのない地域や都会から連絡がくると、向こうの人は「なんだ?」って怪しくおもうんですよ。
なかには、開放的な猟師さんもいるので、そういう人たちは広く生徒をとってますが。    


―猟師免許をとるのに、師匠がかならず必要というわけじゃないんですよね?  

な:
そうですそうです、車の免許と同じです。

免許とったもののペーパードライバーで10年とか、そういう人もいるんですよ。きっかけなくてとか、飛び込む勇気がなくてとか、資格とってもやる機会がないという人はいます。
実際にスキルを磨くとなれば、経験者に習うのが一番早いです。      



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 ▲猟でつかう呼び笛。動物が反応すると、鳴き返しをするか近寄ってくる    


―師匠からは、銃の打ち方を習うんですか?
 

な:銃や罠を使う場面って、猟師の活動を10とすれば、せいぜい1とかなんですよ。それ以外の9を磨かなければ、そもそも獲物を見つけられない。

天候が読めなければ体調管理ができないですし、 落ちてる木々で雨よけを作れなければ長く山に入っていけない。猟の技術もそうですけど、山で迷わない方法とかそういうサバイバーに近いことを習うんです。    


―たしかに、銃をつかうのは最後の最後ですね。師匠について一番の気づきってなんですか?
 

な:
一番感動したのは「人が生きるヒントは、山のそこらじゅうにあるんだよ」ってことですね。

木の状態や生えているもの、 目に見えているもの全てが生きるヒントになってるんですよね。    


―ヒントですか?
 

な:
木の状態からこのへんに山菜がありますよとか、山のようすで天気も読めるし、足跡が追えれば動物がこの辺にいるだろうっていう見当もつきます。

川から離れていても、水分を多く含んだ木があれば、枝を切って吸い上げた水で生きていける。
そういうのが勉強になった。    


―もし、いま山で迷っても平気ですか?
 

な:
なにもなくても10日間は大丈夫ですね。

木や石からナイフを作ることも出来ますし、窯焼きのかまをつくることができる。もののけ姫のサンが寝ていたような、枯葉の簡易的なベッドを作ることもできます。 基本的に現地調達でできちゃうんですよ。  


―なんでも作れるもんなんですね。
 

な:山の色によっても、わかることがあります
しね。
   


―色?色って、カラーって意味の色ですか?
   

な:
そうです、カラーの色。
「あれ、なんか今日、晴れてて空が見えるのに、なぜか日の光が見えないぞ、色が違うぞ」って時があるんです。 そういうときはだいたい、天候が崩れるか、川が増水するかなにかある予兆なんですよ。
猟師はそれが分かるんで「あ、なんか色違う、あっち行くのやめよう」ってわかるんです。    


―色で判断してるんですね!
 

な:
色もそうですし、匂いですとか、そういうので判断できます。


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●視界がジャックされる場所

―本題といいますか、山のなかでの不思議な体験、聞いてもいいですか?  

な:
不思議な体験なんて、しょっちゅうありますよ。

面白くもなんともない話しかもしれないですが、猟師さんからよく聞く話で「なぜか、いま見てる山の風景が変わって見える」ってことがあるんです。    


―変わって見える?
 

な:
「巻狩り」と呼ばれる、グループ猟をする方から聞くことが多いですね。

グループ猟はだいたい8~10人で山に入っていくんです。それぞれある程度離れてますし、ヤブなどで視界に入らないので、無線でやり取りをする。
「獲物を仕留めたぞ!」とか「獲物を見つけたぞ!」とか、そういうやり取りをしているときに、時々、 1人なにかにひかれて歩いてっちゃう人がいるんですよ。    


―勝手に歩いていっちゃうんですか
 

な:
その猟師さんは「あれ?こんなとこに平坦な道があったのかな?ちょっと行ってみるわ」とか、無線で言うらしいんですよ。

でも、実際に歩いてるのは、斜面なんです。当然ずっこけますよね。
で、「いて!」って叫び声が聞こえてきて、猟を中止してみんな向かうと。 すごく擦り剥けてたり、打撲ができててたり、大けがをしてたりするわけです。    


―え?ありもしない道が見えてしまうんですか?
 

な:
そうなんです。いつも歩き慣れてる山なのに、あるはずのない道が急に現れるんです。
   


―わりと起こりがちなんですか、その現象?
 

な:
けっこう聞きますよ。

代々猟師をやってる方ですと、親父さんから「そういうものが見えたら行きたくなるけど行くんじゃあねえ」って忠告をされてたりします。
それを思い出して、立ち止まって助かった猟師もいれば、「斜めに立ってる感覚があるのに、視界は平坦だ。おかしい」と体で感じて助かる人もいる。    


―不思議すぎる!
 

な:
僕が調べて思ったのは、磁気閃光に似た現象がなにかの拍子で起きて、それが猟師さんの目に映るんじゃないかと考えてます。
   


―磁気閃光?
 

な:
簡単にいうと、強い磁気を帯びたエリアに近づくと、人間の脳の信号が狂うことがあるっていう現象なんです。脳って電気信号なので。

鉄塔や鉄橋の近くで、雨が降ったり強い風が吹くと、静電気が生じて、磁気が溜まる。
たまたま、そこに猟師が入ると、磁気に影響されて、脳が勘違いをして、思い出かなんかの映像が見えてしまう。    


―視界をジャックされてしまう……
 

な:
そういう原理で、ありもしない道が見えるんじゃないかと考えてます。
   


―ななふしさんも経験あるんですか?
 

な:
僕は今のところ、その現象に遭遇したことはないですね。

ただし、変な場所に行きついたことならありますけど。なんだここって場所に。    


―そんなことがあるんですか?
 

な:
奥山に行くと、時々そういうことはあります。

知らないところに行く場合は、天気のレーダーですとか衛星の画像分析で、どういう地形か確認していくんです。だいたい頭に入れてく。
でも、実際行くと、「なぜ、こんなところにこんな場所が??」ってところがあるんですよ。    


―どういうところですか?
 

な:
たとえば、木がすっぽり切りとられて、その一帯なにもないみたいな場所です。
風なり落雷なりで木が倒れたら、その状態からどれぐらい前にこういうことがあったんだって分かるんですけど、木自体がないんです、そこだけすっぽりと。    


―不自然な感じで?
 

な:そうです。作為的なというか、人間が切り取ったように。
エリアごとに猟友会が把握してるんで「誰か、このエリア行く人いますか?」って聞くんですけど、「そこまで行くやついねえよ」とか、むしろ「そこまでどうやっていった?」とか聞かれるような場所なんですね。
クライミングの道具を使って、岩と岩の切れ目をたどって崖を渡るような場所。そんなところに、すっぽり木が切り取られたようなエリアがあらわれるんです。    


―それって山の状況的にありえないことなんですか?
 

な:
かなり大きなエリアなんで、衛星地図を見れば分かりますから。ドーンとないんで。

でも、あとからいくら確認しても、そういうエリアがないんです。そういうことが時々あるんです。    



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 ▲猟師の七つ道具。ロープ・双眼鏡・サバイバルツール・火打ち石など。      




●動物の神隠し

な:あとは謎の足跡ですね。  

―謎の足跡?
 

な:
奇形の動物っているんです。足の形がおかしいとか、足1本ないとか。ある程度の確率でいるんですよ。
足跡を追っていると「あれ?これなんの動物だ?」ってなるんですけど、前後の足跡のパターンなどから推測して「あ、イノシシの奇形か」って分かるんです。
でも、ときおり、まったくわからない足跡があるんです。
4つ足なんですけど、なににも該当しない。図鑑調べてもこんなのいないって足跡が。
   


―は~、謎ですね。
 

な:
謎といえば、
動物の足跡を見つけて追っていくと、突如、足跡が消えていることがあります。
「ここから先、こいつはどこ行ったんだ?」ってまったく分からないんです。忽然と足跡が消えるんです。ほかの動物に食べられたとかなら、それはそれでわかりますから。    


―動物の神隠しですね!
 

な:
まったくわからない。不思議なんですよ。
 




●人間の叫び声が聞こえる

―山でおこった不思議をあつめた本「山怪」を読んでたら、いるはずもない人間の声が聞こえるってことがよくあるみたいなんですけど。 ななふしさんもそういう経験ありますか?

な:
気のせいだと思ったことを含めるとけっこうあるかもしれませんね。

でも、声が聞こえた方向を追ってくと、たいていタヌキだったりクマだったりするんです。遠吠えだか、求婚の声だか分かんないですけど、そういう鳴き声。
風吹いてたり、立地によって声が響くと、声色が変わるじゃないですか。それで人間の声に聞こえる。


―あ~、そういう誤解なんですね。


な:
でも、人のしゃべり声を聞くこともありますよ。
聞こえるんです、山のなかで「おーい」って言ってるんですよ、夜中2時に。山道もないところなのに。
そこは崖の近くで、下は川。周囲に人がいないところなのに、後ろから「うおー、うおー」って聞こえるんです、人間の声で。


―え!怖すぎる!


な:
頭のうえ、すごく近くからうなり声が聞こえることもある。 動物がうなるときって「うーっ」じゃなくて、のどを鳴らすような「グルルルル」って声なんです。動物は「う」って発声をしないんですけど、10mぐらいある杉の上から確実に「うーっ、うーっ…」ってだれかが吐いてるような声が聞こえるんです。
そういう鳴き声の動物はいないんで、ブキミだなとは思いますね。


―よく耐えられますね!私だったらパニックになりますよ!


な:
夜の山は、ほんとに闇なんで、ちょっとでもそっちに気が散ってしまうと、周りの安全確認を怠ってしまうんです。

1歩1歩踏みしめて、地形を把握しながら集中しないと危ない。意識は、安全確保に専念する。


―幽霊なんかより、物理的な体の危険のほうが危ないと。


な:
そうです。なるべくそういうのには意識をむけたり、理論的に考えたりしないようにします。

何度か体験してくなかで、そういうものに耳を傾けないように癖をつけました。


―心霊とかぜんぜん怖くないんですか??


な:
心霊現象はイやです。イヤです。

自分の部屋でそういう声が聞こえてきたら、絶対にイヤですよ。
エクソシストでさえ見えれないんで。イヤです。 幽霊だと確定させたら怖いんで、グレーゾーンのことは考えないようにしてます。




●怖さよりも楽しさのほうが100倍強い!

―ほんとにイヤなんですね。それなのに夜中に山に入るんですか?

な:
わたしの場合は、獲物を打つことが最終目的ではないので。

山に入って「こんな感じの動物がいるなあ」とか考えながら、足跡を探すのが好きですから。夜行性の動物が多いから、夜のほうが活発じゃないですか。真っ暗闇のなかで、人間が活動してるなんて思ってないんで、油断してるんですよ、あいつらは!
動物が何匹か同じ方向に走ってる足跡を見つけると「なにかに惹きつけられて走っていったのかな、それとも、なにかから逃げていったのかな」なんて想像しながら足跡を追うのが楽しい。 ブキミな声が怖いって気持ちより、楽しいってほうが100倍強いんです。