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ホースの写真を1000本以上撮り続けている写真家・中島由佳さん。
なぜホースを撮るのか。インタビューしてまいりました。




別視点ツアーで植木鉢ガイドをしていただく木村りべかさんからのご縁で、写真家・中島由佳(Twitter/insta)さんと知り合った。
武蔵野美術大学卒業生で、先輩と後輩にあたる2人は「庭先PT」という企画展を2015年末おこなった。 かたや植木鉢の写真、かたやホースの写真、庭先の写真ばかりが展示会場を埋め尽くしていた。
 

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 ▲2人展「庭先PT」の様子。すごいホース量。  

まずは理屈抜きに、中島さんの公式サイトに載っている、ホース写真の数々を見てみよう。  


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ひとくちにホース写真といっても、そのたたずまいはさまざま。
ホース歴5年、いままでに撮影したホースの数、約1000本。
なぜこれほどまでにホースを撮り続けるのか、その魅力がなんだかわかるようで分からなかったので、くわしくお伺いした。      


●手土産はバームロール(ホースに似ているから)

中島:今日はよろしくお願いします。お土産にバームロールとチョコペンをもってきたので、召し上がってください。
以前、「庭先PT」でホース写真の展示をしたときは、ホースに似ているので物販でヒモQ(ながいグミ)を売ったんです。
今回はバームロール。味はあまり好きじゃないんですけど、形がホースに似てるので。  

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 ▲ブルボンのバームロール

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▲チョコペン 


―味の好みより、ホースに似てることが大切なんですね。チョコペンはなんのために?

中島:(持参したポートレートめくって)こんな感じでですね、縦の線や斜めの線をチョコでいれると、よりホースらしくなるんですよ。
こうして黄色い線が1本入ってるのは、ホースの絡まりをすぐに確認できるようにするためだそうです。


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▲ホースのようにチョコで線を入れた  

中島:ちなみに、緑色のホースが多いのは、藻が繁殖しても目立たなくさせるためなんです。
そもそも、藻の繁殖を防ぎたい場合は、内側を黒くするのが最強です!
水の通りも確認したいけど藻が気になるなぁ・・・という贅沢な悩みからうまれたのが日本に多い、緑色でやや透けてるホースのようです。  


●ホースを一本見つければ、その周辺にはたくさんのホースがあります  

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▲記念すべき、はじめて撮影したホース    

―いままでどれぐらいホースを撮っているんですか?  

中島:ホース撮影歴は5年目で、武蔵野美術大学にいたころから、会社員になったいまでも撮り続けてます。
すでに約1000本のホースを撮ったんですけど、正確な本数は分からないですね。    


―最初から、意識的に撮ってたんですか?  

中島:
庭先が好きでよく撮ってたんですけど、あるときフォルダを見返してみたら、ホースの写真がやたらたくさんあった。
それで気づいたんですね、あ、わたし、潜在的にホースを愛してるんだな、じつはホースと相性がいいんだなって。
カメラ女子になれると思ってたんですけどね、それからは、ホースばっかり撮ってました。


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―1000本も撮るほど、ホースって町中にありませんよね?  

中島:いえ、かなりありますよ!植木を育ててる家にはかなりの確率でついてますし、お寺やガソリンスタンド、タクシー会社の駐車場にもホースは必ずあります!
お寺には植物が植わってますし、ガソリンスタンドや駐車場は車を洗うからです。学校のプールにもたいていホースはあるので、選挙投票で入るチャンスがあったら、撮るようにしています    


―ホースの在りがちなスポットをつかんでるわけですね。  

中島:新興住宅地は同じような設計で建てるから、ガーデニングできるようにしてる家が1つあれば、まわりの家も同じくガーデニングをしてますし、そこにホースはあります。
ゴキブリじゃないですけど、ホースを1本見つけたら周辺にもたくさんのホースがあるんです。    


   

●小さい人間になって歩いたら楽しいだろうな

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―どういうところがホースの魅力なんですか?  

中島:たとえば、これ(↑のホース)なんて、うねうねしてて、ジャングルみたいで楽しいですよね!小さい人間になって歩いたらさぞかし楽しいだろうなって思いますね。    


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―あ~、ドラゴンボールに出てきた蛇の道みたいですもんね  

中島:楽しいのもいいですし、こういう細くてにょろにょろした細い線が、こんなに広い場所にある頼りなさ、虚しさもいいですね。それでいて、ホースって発色がいいから、主役になれるんですよ。

 
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中島:長いのばっかりじゃなくて短いホースもカワイイ    


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中島:この短いやつは、配管を地面に繋げて、水を静かに落とすためのホース。水滴を飛び散らかさないための、アイデアや創意工夫がこのホースにはありますね。植物に水をやったり、車を洗うだけじゃなくて、ホースにはいろんな使い方があるんです。
2階にお風呂にある家で、ときおり排水溝代わりにホースを使っている場合もあるそうですよ。わたしはまだ見たことないんですけど、そういう情報を人づてに聞きました。    


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―なるほど!ホースの使い方から、家の人の発想力などもわかってしまうんですね。  

中島:そうなんです、いろいろ見えてきます。ホースの巻き方もいろいろで、たとえば、この上のホースなんて、持ち主はすごく几帳面ですよね。キレイに丸く巻いたうえに、最後、ホースのあいだに挟んでますから。    


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中島:ホースには人間の気配、生活の気配があって、そこもまたいいんですよ。  

―たしかに一見「もう誰もつかってないのかな」って寂れた小屋でも、ホースがあるだけで、まだ稼働してるんだ、生きてるんだって思えますね。    


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―このホースはなにが気になって撮ったんですか?  

中島:これは、壁ですね。ホースをつかってる時にこすれて出来たのであろう汚れが、壁についてるんですけど、これって、ホースが描いたドローイングですよね!
ホースが絵を描いてるんですよ。      



●インスタでホースにタグ付けされるんです

  ▲ホースに中島さんのインスタアカウント(@nakasmith)がタグ付けされている    

中島:あまりにインスタでホース写真をあげるものだから、ホース=中島と思われるようになっていて・・・。
最近なんて、写真を勉強してる学生さんが、ホースを見て「あ、中島さんだ!」とタグづけして、アップするようになってます。
60枚以上わたしがタグづけされたホースがアップされてて、嬉しいんですよ!  


―ほんとだ(笑)もはや、ホースと同一化されてるんですね。  

中島:ホースが気になるようになってる。そんなふうに人の意識を変えたのは嬉しいですね!
水を流すホースだけじゃなくて、電線とかを包むチューブもかっこいいから撮ってるんですけど、たまに「それ、チューブですよ!」って指摘されますよ。  


―「大変だ!ホースじゃない!教えてあげなきゃ!」って思われてるんですかね(笑)

 
   

●ホースを2本育てています

―それだけお好きだと、ご自宅にもホースはあるんですか?  

中島:はい、4本ありますよ!  


―4本も!ありすぎ!  

中島:1本はお手洗いに、1本は洗濯機に、リボンを巻いてひっかけてます。水場にホースがあると運気があがりそうだなって、自分風水で決めているので。  


―自分風水ってたんなる思いこみでは・・・。あとの2本は?  

中島:あとの2本は育ててます  

―育てる?  


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中島:これは、一番気に入ってるホースなんですけど、キャラメルのかかったバームクーヘンみたいで美味しそうですよね。このホースの寂れ具合に近づけるようとして、残りの2本とも物干し竿にひっかけて、日光にさらしてるんです。  

―その行為を、ホースを育てるっていうんですね。これに、近づきましたか??  

中島:それがまだ育てて半年なので、まだまだ兆候すら出てないですね。
盆栽みたいな長い気持ちで、世界で1本だけのホースを育ててみます!      



●就活をしている私はフグだ

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▲大量のフグ写真も見せてもらう  

―ホースの魅力、ホースにたいする愛はかなり理解できました。ところで、中島さんはフグの写真も撮られてますよね?  

中島:フグは自分で写真集も作りましたよ。撮りはじめたのは就活がはじまる大学3年生のとき。デザイン情報学科だったんですけど、どうも自分はデザインに向いてないと気づいてしまって・・・、将来が不安だったんです。  


―なぜ、そんなときにフグを撮ろうと?  

中島:フグって毒を抜かれて消費されてしまうのに、とぼけた顔してフグ屋の水槽で、おいしいよおいしいよって自己PRしてるじゃないですか。いまからおもえば、なにも努力してないくせに、誰もわたしを理解してくれないって、就活中は気持ちが不安で。
そんなとき出会ったフグを見て「このフグは私だ!」と感情移入してしまったんです。  
 

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▲フグ屋の水槽にいるフグは喧嘩をしないよう、歯をぬかれる  

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中島:「どうせ悲しい運命をたどるのに、こいつらもがんばってる!私も頑張ろう!」と癒されてたんです。フグの展示もしたんですけど、見る人はこの気持ちを汲みとってくれて「共感しました!」ってけっこう言ってくれました。  

―消費されてしまう、悲しい運命をたどるって、だいぶ悲観的に感情移入してたんですね。

中島:ただ、フグは学生時代でおさまりました。社会人になって落ち着いてきたので。 最近は、海に行く機会があったんですけど、貨物船を引っ張る小さな船が気になってます。自分の何倍もある大きな船に体当たりして、方向転換させている。なんて働きもので、愛らしいんだと。  


―自分のおかれてる環境で被写体への関心が変わってくるんですね。  

中島:そのとき思ったこと、感じたことを、同じふうに思っている人たちにむけて、作品を作り続けたいですね。無理に共感してもらおうとは思っていないですけど、やってるうちに、自然と共感されてたら嬉しいですね。    



◎写真家・中島由佳 Twitter/insta