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秘宝館界の現役レジェンド、珍宝館の館長兼マン長のちん子さんに7000字インタビューをしてきた!
すべての質問に真摯に答えてくれて、最終的には熱い仕事論にたどり着いた。









みなさんは「秘宝館」と呼ばれるスポットをご存じだろうか。


秘宝、すなわち隠されたお宝。
そこから意味を持ってきて、主にアダルトな展示物を飾る博物館が「秘宝館」と呼ばれている。

北海道秘宝館、鬼怒川秘宝館、別府秘宝館……。
全盛期1970~80年代にかけて、北海道から九州にいたる全国各地に20館以上もの秘宝館があった。

が、今では絶滅寸前。
秘宝館の名を残すのは「熱海秘宝館」ただ1館となっている。

名称に秘宝館というワードこそ入れてないものの実態は秘宝館、というスポットもあるにはあるがその数も年々減る一方だ。




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▲群馬県の伊香保温泉からほど近い「珍宝館」


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▲珍宝館の展示品の一例


群馬県の「珍宝館」もそんな秘宝館的スポットの一つ。

他の秘宝館同様に、大切なところを触りあってる道祖神やエッチな浮世絵、秘宝に見える自然木や石を展示している。

だが、珍宝館にとってそれらの展示物はあくまで引き立て役。
圧倒的な主役が他にいる。




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圧倒的主役、それが彼女。


秘宝館の館長兼マン長のちん子さんだ!


もちろん本名ではない。いわば芸名。
マン長。どんな大きな企業にも存在しないであろう唯一無二の役職についている。


なにが凄いってちん子さんの話術だ。

展示品の解説をしてくれるのだが、立て板に水のマシンガントークで入場者を圧倒する。
本来であれば具体的にどういうことを言うのか、トークスクリプトの一部を紹介したいところだが、とてもウェブには書けないド直球の単語と内容ばかり。
仮に書いても以下のような虫食いクイズになってしまう。


「一番後ろにいるあんちゃん、○○○が勃ったからって前の人の○○にVゴール決めないでね!」

と言った調子。
のっけから全力投球の下ネタで客をイジる。
毒舌の中に軽妙なユーモアを織り交ぜたトークは綾小路きみまろのようだ。




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まるで笑わず、終始、真顔。
言ってることはどぎつい下ネタなのに、態度と顔つきが凛としていて、一瞬で空気を支配されてしまう。


我々、別視点でもバスツアーを組んで何度も団体で行っている。
ユーモア混じりの解説の解説にアハハハハと油断をして笑っていたら、ちん子さんがとつじょ私を指差し「お前のアソコを見せろ。さあ、早く」と言い出したことがあった。
最初は「またまた~」と冗談っぽく返していたのだが、真顔で「早くしろ」と1分以上攻めたてられ、変な空気に。

バラエティー番組が好きな私には分かった。


これは脱がなきゃ先に進まない流れだと。


「こんなに明るい室内で数十人の前で、男性自身をさらけ出さなくてはならないの??」
心は激しく動揺した。
ええいままよと覚悟を決めズボンに手をかけた瞬間、ちん子さんは私のことなど目もくれず別の話題をしはじめた。


心を蹂躙された。





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定番の流れがある。

お客さんの股間をそっと触れて「サハラ砂漠」などとあだ名を付けていくのだ。
なかでも「たまごクラブ」「ひよこクラブ」「こっこクラブ」の3連続コメントには爆笑した。
単語選び力、すげーー!

ちなみに私ははじめて行ったときは「子ども店長」と名付けられ、2回目に行ったさいは「レアメタル」になった。格段の進歩である。




とまあ、珍宝館はパワフルで大好きな珍スポット。
かねがね、ちん子さんとは腰をすえてお話ししたいと思っていた。
今回は7000文字もの大容量でインタビューをさせていただいた。




【珍宝館の館長兼マン長のちん子さん 7,000字インタビュー】

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――1日何回、解説してるんですか


数えてる暇がないから分からないね。土日は特に忙しいから。




――いつからこの漫談スタイルになったんでしょうか


昭和56年だね。
はじめた頃は説明しようと思ってたわけじゃなかったんだけど、団体バスが老人会連れてきたのね。そしたら、おじいちゃんたちバスから降りるのも大変で手伝ってあげたの。
はじめて見る物ばっかりだから「これなに、これなに」ってどんどん質問してきて、それに答えてたらやたらウケたのよ。

帰りのバスでもそのまま盛りあがっちゃって、1回もトイレ休憩しなかったんだって。
運転手さんも喜んじゃって「また団体連れてくるから、同じようにやってくれ!」って。それで解説するようになったの。




――当時はマジメに解説してたんですか


そんなわけない、ほとんど冗談だよ。
おじいちゃんの股を触って「小さくてナメコみたいだね!」とか言って。




――その頃から定番のくだりやってたんですね!ためらいはなかったんですか

ためらいなんかないよ!ヨタヨタしてるじいさんばあさんだから、怒ったとしても蹴りくれればやれちゃうから!
その時は下ネタって感覚もないのよ。じいさん相手にソフトに言ったって通じないじゃん。はっきり言っても笑わせればいいわけ。




――普段からそんな風に股間触ったりしてないですよね


普段やるはずないよ!逮捕されちゃう。




●はじめてのテレビ放映は、喋ってることほとんど消された

――もともとは珍宝館のすぐ隣で、うどん屋さんをされてたんですよね


そう。うどんの儲けでこっちを作ったの。うどん屋はお父さんがやってて、珍宝館を作ってから私はこっち専門。
5年前までやってたんだけど、お父さんが入退院繰り返してうどん屋は閉めて、今は受付やってくれるようになったよ。




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――うどん屋から珍宝館ってすごい急激な変化ですよね


勝算があったんだよ。
うどん屋さんやってたころ、お父さんの友だちが縁起物だって2~3mぐらいのちんちんを彫ってくれたんだよ。道路ぎわで彫ってたら「教育上良くない」って言うんで、上毛新聞の社会面にドーンと書かれてさ。紙面の8割ぐらいの大きさで書かれた。

そしたら、実物見るために人が来て、うちの前の道路が渋滞しちゃったわけ。最初見た時は「なんだこれ、交通事故か」って思った。それがね、1年も2年もずっと来るんだよ。
それがあったもんだから、こういう店やったら繁盛するじゃないかって。




――ああ、こういう物が好きで始めたわけじゃないんですね


ぜんぜん興味ない。仕事だからこうやって集めてるけどね。
秘宝館やりたいって思ったけど、展示品の数がないとダメだから、良い悪いじゃなくてお皿とか茶釜とかは片っ端から集めたよね。10点20点じゃ商売にならないじゃん。いっぱいあったほうがお客さんは得した気分になるから。




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▲ちん子さんが一目惚れした作品たち


――でも、人型の木の彫刻は気に入ったんですよね


あれは一目惚れ。
群馬の赤城山の村で住んでる人が、何十年もかけて作ったんだよ。
山の仕事してるから鷲とか鷹を木彫りしてたんだけど、そういうのは木に厚みがないと彫れないでしょ。
そんな時、村の旅行でここ来て「小さい木で彫るなら珍宝館みたいなの彫ろう」って思ったんだって。

癌であと1年の余命って分かった時、子どもと奥さんに「これ、どうすんの。はやく処分しないと燃やすよ」って言われて、軽トラで持ってきたのよ。買ってくださいって。
すごく良いなって一目惚れしちゃって買ったらさ、そこから軽トラが5台も来たのよ。




――すっげえ、軽トラ5台分もあれ作ったんだ!秘宝館的な展示には興味ないのに、木彫りは一目惚れだったんですね



なかなか無いじゃん、こういうの。お気に入りだよね。絵なら描けばあるけど、あれは木の形活かしてるからさ。絵とかそういうのは見る目ないからピカソ見たってどこがいいのか分かんないけど、あれはおじいさんの心意気を感じるよ。
おじさんも偉いんだよ。80いくつだったんだけど60代くらいのキレイな彼女連れてきて、売ったお金をぜんぶ渡してたの。粋なおじいちゃんだなって思ったね。




――珍宝館はオープン当初から人気だったんですか


最初は大したことないよ。
きっかけは群馬テレビの放映だね。土曜夜11時「ミッドナイト瓦板」って番組で、群馬の食とか珍しいスポットを紹介するコーナーに取りあげられたんだよ。
「こういうふうにやって。こういうふうに言って」って指示があったんだけど「いつも通りじゃなきゃ出来ない。ダメならボツにして良いよ」っていつもの説明をしたの。お客さんが喜んでくれるってのは分かってたからね。

そうしたら私が喋ってる言葉、ほとんど全部消されたじゃん。
なんて言ったのか気になるから、テレビ見た人が来るんだよ。群馬とか埼玉、栃木からも来た。こんなに来るんだってぐらいお客さんが来た。




――放送されなくても、いつも通りを貫くなんてかっこいいです!


かっこよくなんかないよ。単純に台本なんて覚えられないのよ。




――じゃあ、解説の台本やネタ帳もないんですか


そんなのないよ。30年もやってりゃバカだって覚えるよ。




――あんなに時事ネタを盛りこんでるのに、ネタ帳ないんですね



ニュースが好きだから時事ネタも自然と入ってくるのね。
同じニュースでも番組によって見解が違うじゃん、それが面白いのよ。朝は7時半までNHK見て、そのあとは10チャンネル見る。
ニュース以外にはドキュメンタリーとか宇宙についての番組を見てるよ。コズミックフロントとか。




――なんで宇宙が好きなんですか



だって、果てしないじゃん!
つぎつぎ新しい発見があるでしょ。
わたし学校出てないからバカなんだけど、宇宙のことを知るのは面白いよ。




●仕事以外ではぜんぜんしゃべらない。下ネタも言わない

――コメディとか映画は好きですか?ちん子さんのトーク力の源泉はなんなんでしょう。


コメディも漫才もぜんぜん好きじゃない。人を叩いて笑ったりするのがさっぱりわからない。そういう番組ってぜんぜん見たことない。映画も見てない。




――じゃあ、俳句はどうですか?


俳句?大嫌い。




――大嫌いなんだ(笑) 子どもの頃から人を笑わせるような性格だったんですか?


ぜんぜん。根暗でシャイだったし、本を読むのも大嫌い。
近所の子とは遊べるけど誰とでも話しができるような子供じゃなかった。その人のことが嫌いと思うとずっと嫌いなのよ。




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――どんなお客さんでも見事にさばいてるから、人の好き嫌いは無いと思ってました

仕事ならそりゃ誰でも対応するよ。
おっぱいが見えるようなシャツだったり、かがむとパンツが見えるようなスカートの子っているでしょ。夜にこれから彼氏とホテル行くって言うなら良いけどさ、昼間っからそんな格好するのは嫌いだね。TPO考えてよっておもう。下品なのは好きじゃないの。




――たしかにちん子さんの下ネタは下品じゃないんですよね。根暗だった子がどうしてこんなにしゃべれるようになったんでしょうね



この仕事のおかげだよね。やっていくうちにしゃべるのに慣れていく。こういう風にしゃべれば喜んでくれるんだな、って分かるからどんどんブラッシュアップされていくんだよ。
ゴルフが好きでよく行くんだけど、今でもキャディーさんに「珍宝館の奥さんってずいぶん根暗なんだね」って言われるよ。ゴルフにグッと集中するから何もしゃべらないの。仕事じゃなければ一言もしゃべらないよ。




●館長兼マン長のちん子を名乗るのはナメられないため

――どうして「館長兼まん長のちん子」を名乗るようになったんですか


キャッチフレーズとして気に入ったのよ。珍宝館の館長兼マン長のちん子って分かりやすいじゃない。




――たしかにキャッチ―です。「え?」って二度見しちゃいます



昔の団体バスのお客さんってだいたい酔っぱらってくるのよ。
はじめたばっかりの頃は私もまだ若いから、バカにして触ってきたりするの。「こんなとこで何百円も出して、くだらねえ話し聞きたくないよな!」とか騒ぎながら。

そこで、一発かますわけ。
「ここから本番に入ります。わたくしが珍宝館の館長兼マン長の珍子です」って。
館長兼マン長って威厳を持って力強く言うのよ。そうするとバカにしたり触ったりしなくなる。もしちょっかい出してきても「私は神の使いです。下々には触ることはできません」って言えば大丈夫。酔っぱらってるとそれだけで笑うからね。




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――ああ、あの堂々とした立ち振る舞いにはそういう意味もあったんですか!昔は客イジリに怒る人もいたんですか?



昔とか今とか関係なく、怒る人はいるよ。やたら威圧感出してる男だね。そういう男が彼女と2人で来てるのが一番マズいパターン。「金取って、チンコ触って、小っこいの大きいのフザけんな!」って怒鳴るから。
団体客なら止めてくれる人がいるんだけど2人だと大変。彼女は止めること出来ないでしょ。
そういうことになりそうな場合は話しをソフトにして、早めに切り上げちゃう。




――ヤバそうな人は見た目で分かるんですか



いくらしゃべっても笑わないよ、そういう人は。やってるうちに分かるようになってきたから、そういう人はターゲットにしない。
団体客でも話しを振ったりイジったりするのはよく笑ってる人。この人なら大丈夫だなって人に話しを振らなきゃ、反応がなくて盛りあがらないからね。




――秘宝館バスツアーをやると男女比率3:7ぐらいで女性のほうが多いんですよ。実際、女性客増えてますか?


それはとてもよく分かる。最近、特に増えてる。
女性って受け身の体であって、男性ほどそういうビデオ見るチャンス少ないじゃない。ここは大っぴらに見れて、そんなにグロいわけじゃない。面白おかしい解説の後だから堂々と展示も見られるのよ。
男も女も同じで興味はあるわけ。




―昔はあんまり女性客いなかったんですか


伊香保温泉に泊まってる団体ばかりだよ。今はほとんど個人客だけど、昔は全部バスだから。一団体で50人くらいかな。駐車場にバス止めきれなくて、道路沿いにもずらっと止まってたよね。ツアーコースに組みこまれてたし、一回来ると面白いから運転手さんがまた連れてくるのよ。




●モチベーション維持のコツは「欲と二人連れ」

――同じことの繰り返しでモチベーションが下がる時はありませんか



そんな時はぜんぜんないね。




――なにかコツがあるんですか?


欲と二人連れだよ。




――え?欲と二人連れ?


あの木がそうだよ。台にしてる2つの木があるだろ。あれ。



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▲この木


珍宝館の前の道路は、10mか20m先が沢になってるの。
この木はその沢に落ちてたんだよ。切ったからこの長さだけど、もともとは2~3mの木だった。
うどん屋始める時にさ「丸い座布団置いたら椅子になるね」って背負ってきたの。そん時はお金なかったからさ。それが欲と二人連れよ。
欲があったから重いけど持ってこれたの。




――欲が原動力になる


誰だってもっと地位を上げたいとかもっと良いとこ住みたいとかあるでしょ。
うちだってこの商売始めたからにはこの街道で一位になりたい、群馬で一位になりたい、日本で一位になりたいって思ってやってるわけ。




――このジャンルではすでに一位なんじゃないですか?


ジャンル絞って一位になりたいわけじゃないの。観光全体で常に上を目指してる。




――じゃあディズニーランドがライバルになりますね


……それは、さすがに!
今日の売り上げより明日の売り上げ。少しでも売り上げを伸ばすことを目指してる。





●パンが原因で家を飛び出した

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▲夫婦でやってたうどん屋(閉店済み)


――珍宝館を始める前はご夫婦でうどん屋をやっていた。さらに、その前は何をしてたんですか



父親と食べ物のことで大喧嘩して、19で家飛びだしたんだよ。
会社に勤めてたんだけど、厳しい家でさ、父親に給料持ってかれてお小遣いもくれないの。「何に使うからお金ちょうだい」って言ってお金もらうような家だった。




――食べ物で喧嘩ってどういうことですか



私は末っ子なんだけど、兄さんのお嫁さんが朝の片づけとかしてくれてて。父親はそれが気にいらなかったのよ。
実家で蚕飼ってたからさ、糸が売れた時は父親がパンを1人5つくらい買ってきてたの。私も食べようとしたら「お前は何もしてないだろ」って食べさせてくれない。
「パンの1つも食べれない家なら居たくない!」って飛びだしたわけ。




――食の恨みは恐ろしいですからね



それから寮のある会社見つけて入ったんだけど、お金1円も持ってないじゃない。最初のお給料まで1ヵ月過ごさなきゃいけないから、姉に生活費3000円借りたの。

だけど、苦しかったよね。会社でご飯も出してくれるんだけど茶碗1杯。私なんてそのころ3杯食べてたから。
それじゃ生活できないっていうんで、ちょっとした小料理屋さんで夜にアルバイトした。皿洗いだと残ったもの食べれるのよ。贅沢はできないけど、食いたいものは食えたよね。




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――ご飯が決め手で人生が動きますね


1日500円だったかな、アルバイト代だけで生活してたから会社の給料には手をつけなかった。そのまま貯金しちゃったの。スゴイな、こういうところは父親にそっくりだなって思ったよ。




――ずっとかけもちしてたんですか


そのうちに夜のアルバイトのほうが稼げるようになっちゃって。かけもちでやってたら疲れで体調崩しちゃったから、昼の会社辞めたのね。
でも、夜の仕事だけだと昼間もてあましてつまんない。そんなとき新聞広告でお弁当屋さんの仕事を見つけたの。「ここならご飯がいっぱい食べられる」って申しこんだよ。




――そこもご飯!



運転免許持ってたから、配送の運転手してくれって言われて。車大好きで、お金貯めて車買おうと思ってたからちょうどいいやって受けたの。
そしたら、また給料良くなっちゃた。バカだけど体力はあるからね。




―― 飯に突き動かされてる……


しばらく運転手してて、私が24歳になった時、すっごく仲の良い友だちが「桐生のお店が空くから、スナックやりな」って誘ってくれたの。友だちが大家してたんだけど、あんたなら出来るよって。

お店が完成する2~3か月前に家族に報告したんだけど大反対。でも、工事始まってるからね、どうしようもない。そしたら「お金足りないなら貸してやろう」って父親も折れたよね。
借りなくてもお金あったけどさ、親の気持ち考えて30万借りてあげたの。
期限が来て返しにいったんだけど、なんだかんだ言ってくれるかなって思ってたのよ。でも、30万全額受け取ったの。すごかったよ、うちの親。




――スナックやってたんですね。なんだか筋が繋がった気がします。どれぐらいの規模のお店ですか


5坪。畳で言ったら10畳だね。ボックス席2つとカウンターだけの小さなお店で、私だけで回してた。仕事もやめてそれ一本で6年やってたね。
女の子のお客さんがたくさんいたから、男のお客さんは勝手に来るのよ。




――スナックなのに女性客が多かったんですか?



ほら、運転手してたでしょ。
そのときの会社の社長のお嬢さんに声かけたの。調子良いんだけど「お店始めるんで、お友だち連れてきて」って。あとは事務員さんにも招待状渡してさ。最初の1ヵ月で50万売り上げて、なんだかんだ3か月でかけたお金を全部取り戻せたよ。




――策士ですね!旦那さんともそこで知り合ったんですか


そう、そこで知り合った。
マスターには彼女いたんだよ。遠距離恋愛してる彼女。
新潟に住んでる彼女に30分くらい電話していって100円しか置いてかないから、この野郎って思ってた。




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――スナック仕事は向いてるなって思いました?


それも欲と二人連れ。
車買おうと思ってお金貯めてたからやるしかない。

いすゞの117クーペが欲しかったんだけど、それはそれはスタイルの良い車で。
そのとき桐生で1台しか走ってなかったんだよ。ナンバーも覚えてる。向こうから走ってくると分かるんだよ。でも、とっても高くて買えない。ガソリン代、税金、駐車場代、それを維持するだけのお金は会社じゃ得られない。

キレイごとばっかり言ってたんじゃダメなのね。
スナックの店名も「モア」だから。ワンスモアのモア。「もっと」って意味だよね。やっぱ目標がないとダメだよ。




――スナック経営の6年間でトーク力が磨かれたんですかね



それはあるよね。
なによりやっぱり、人生変わったのは家出た事と配送の運転手やったことかな。それで変わった。
当時、女の運転手なんていなかったから、桐生の町を運転すると目立つのよ。タクシーの運転手だろうが運送会社の人だろうがちやほやしてくれるの。それまで根暗だったのに優越感を感じるの。

弁当を配達しに行くと「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って構われるのね。その時は腹が立ったけど、今から思えばチヤホヤしてくれたわけ。ジュース買っておいてくれたり、お年玉くれたり。パン買っといてくれたり、おむすびくれたり、ちやほやされると「私ってこんなすごいんだ」って宙に舞っちゃう。22歳くらいだったし。

銀行はエレベーター使わしてくれないでさ、弁当30個持って3階まで登るのよ。しんどかったけど全部自信になるよね。お金なくても頑張って働けばなんとかなるじゃんって。





●仕事は合う合わないじゃない。続けて、合わせる。

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――お弟子さんとかいないんですか



いないよ、そんなの!
誰かに継がせたいって意志はあるけど、どうすりゃいいの。欲と二人連れじゃないとこの商売できないよ。アルバイトとかじゃ適当に手を抜いちゃうでしょ。




――お子さんはいらっしゃるんですか



子ども3人いるけど、長男がどう思ってるのか分かんないね。




――息子さんはこの仕事について何か言います?


何も言わない。
生まれた時からこうだし、これが生活だもん。




――そうか、ちん子さんたちにとっては生活なんですよね。嬉しい時ってありますか



お客さんと一つになった時だね。
私がツーと言えば、カーってなった時は説明が倍ぐらいになっちゃう。予期してないアドリブがどんどん出てきちゃう。




――逆に嫌になったことは?


嫌になったことはない、ない。こんな楽しい仕事ありゃしない。
ふりかえってみれば運転手してる時も、スナックの時も楽しかったし、楽しくやれてたから続けられてるんだろうね。




――仕事が楽しくないって人も世の中にはたくさんいますよね。最後に、そういう人へ何かアドバイスありますか?



あのさ、今の子どもたちが使う、すごく嫌だなって言葉があるんだよ。
学校卒業して就職したら「こんなのは俺の思ってる仕事と違うんだ」って言うじゃん。
でもさ、そんなこと言っても学校出たばかりでなんの才能があるの。10年20年やってみないと分かんないでしょ。俺に合う合わないなんて言う資格ないよ。生意気がすぎるっての。まず続けないと。

死ぬぐらいならやめればいい。死んでまでやるこたないけど、自分の能力ってのはそれほど大したことないってよく覚えておくんだね。
私は少し我慢が出来たから、だんだん合ってきたんだよ。 


――合う、合わないじゃなく、合わせにいくわけですか。ありがとうございました。





【最後に】

営業中の珍宝館で解説の合間を縫ってのインタビューだった。
素の状態、1人の女性から職人ちん子にスイッチが切り替わる瞬間を何度も見た。
磨きぬかれた芸に一変する空気。職人芸とはまさにこのことだと思った。

珍宝館、ぜひぜひ一度体験してみて!




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「1人では行きづらいよ」という方向けに、10月15日(日)「秘宝館バスツアー」を運行する。

珍宝館はもちろんのこと
・情熱の秘宝館「性神の館」
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と3つの秘宝館をいっきょに巡る!

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