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路上の植木鉢を10年観察しつづけ、分類図まで作りあげてしまった木村りべかさん。
「植木鉢は育て主のクセが出てるほどいい」「良い植木鉢の3条件とは?」「すべての植木鉢に反応してるとノイローゼになる」などまなど。植木鉢観察についての連載スタートです。


(著者:木村りべか





【著者】

木村りべか
 (記事一覧/ twitter / 公式サイト

 kimura

図画工作作家。植木鉢と動物とかわいいものに興味があります。



みなさん初めまして。木村りべかと申します。

普段は図画工作作家として、「日常に違和感を見つけたり作ったりする」をテーマにアート活動を行っています。
毎日お決まりのパターンで過ぎていく日常。ちょっと視点を変えると面白いことが起こってることに気づきます。その面白さに触れたとき、じわじわと快感に包まれます。

近年では色々な人の秘密を取引したり、架空のファンシーショップを営んだりしています。




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▲人のひみつを売っているところ


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▲老婆に扮してファンシーショップを営んでいるところ

日常によくあるものとして【植木鉢】の存在が気になっています。
記事をご覧のあなたがお住まいの街にも、100鉢くらいは余裕で存在しているのではないでしょうか。
「植木鉢を見つけて撮影する」という活動を2008年から10年ほど続けています。
この連載では、私・木村りべかが感じている植木鉢の面白さを皆さんにお伝えしていきます。




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▲植木鉢と室外機。よくある組み合わせです。




・植木鉢の種類

人より少し長く植木鉢を観察し考えを巡らせてきた結果、植木鉢は以下のように分類出来ることがわかってきました。


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▲あなたの街に、分類表の中にあてはまる植木鉢はありましたか?

植木鉢は様々な特徴が組み合わさって構成されているので、表に当てはまりきらない・枠を飛び出してしまうことはよくあることです。
とりとめもなく植木鉢を観察していると何がなんだかわからなくなってしまうので、特に個性が出ているところを分類図に放り込み、その植木鉢の魅力について考えています。




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▲「装備」の中の「肥やす」鉢。

貝は植木鉢とセットで置かれていることが多いです。土を中性にするとか肥料になるとか、説は様々ですがいずれも粉末にしないと効果は薄いそうです。
貝を鉢にしているので「みなし鉢」の要素もあります。
大きくなったらヤドカリみたいに引っ越しするのかな。




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▲「配置」の中の「乗せる」、「台」の植木鉢。

手作りの台に納まり良く乗っていて美しいです。




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▲「状況」の中の「労働」、「開けずの植木鉢」。

飾られているだけでない、「階段を通らせない・ドアを開けさせない」役割を持った植木鉢。





・植木鉢を撮るようになったきっかけ

植木鉢に興味を持ち始めたのは、美大2年生の時(2008年冬)でした。写真作品の制作をしていて、街を歩きながら撮影するモチーフを探していました。
地元の小さな映画館の裏手に鉢植えが置かれているのを見た時、その場所の華やかな記憶が頭をかすめました。



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▲リボンでラッピングされてるので誰かから贈られた鉢なのでしょうか。植物はまあまあ元気で良い感じ。壁とラッピングの色合いが可愛い。

花盛りを過ぎてしまった植物と、それを捨てちゃわない映画館のスタッフさんの関係を妄想して「なんか良いなあ」と思ったのがきっかけです。
そこから街を歩くにつれ、人の痕跡が色濃く出ている“植木鉢”に惹きつけられるようになりました。





・全ての植木鉢に反応しているとノイローゼになる


植木鉢を気にしながら街を歩いてみるとおわかりいただけると思うのですが、植木鉢って無限に存在してるんです。
植木鉢を探して歩くと、10分の道のりが3時間経ってもまだ目的地に着かない…ということがよく起こります。
ピークの時期には「目に入ってくる植木鉢全てを写真に収めなければならない」という強迫観念に悩まされることもありました。

ですが、今では私にとっての良い植木鉢とそうでもない植木鉢の違いがわかってきて、冷静に街を歩くことが出来るようになりました。





・良い植木鉢の3条件

「良い植木鉢」の条件は3つあります。

1.鉢的な容器に入っている
2.育て主の技が光っている
3.植物に生気がある



1.鉢的な容器に入っている


「植物が容器に入れられている」、植木鉢の絶対条件です。
時々地面に直植えになっている植物について意見を求められることがあるのですが、植物そのものにはそんなに興味がないため、返答に困ります。
植物を鉢の中に収めようという人間的な行為にぐっときます。
犬や猫、ハムスターといった動物を自宅で飼育するペットと同じだと捉えています。植木鉢は動かないペットです。


鉢の種類も見ていきましょう。
ホームセンターのガーデニングコーナーでは、植物を育てる専用の鉢製品が見られます。



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▲素焼きだったり、白や紺色のプラスチックで丸型だったり、大き目で四角かったりするあれら

製品以外でも、容器的な物に植物が入っていれば植木鉢であると認識しています。
鉢の仕立ての面白さはパッと見でもわかりやすく、育て主のセンスがキラリと光るポイントです。




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▲漬物樽は植木鉢としてよく活用されています。小人は装飾として挿されがちです。


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▲元々はベビーバスだったのでしょうか。大量の草があふれ出しています。





2.育て主の技が光っている

この部分に植木鉢鑑賞の大きな醍醐味があります。
「たくさんの動物マスコットでデコってるから可愛いものが好きなのかな~」とか、「なんでやかんを鉢にしてみたんだろう」…など、お世話の様子=育て主の技からその姿や行為の意味を想像することで、なんでもない景色にとっかかりが生れ、親しみがわいてきます。



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▲こちらは並べの技。控えめながら、鉢の色を交互にして並べているのにこだわりを感じます。


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▲こちらは鉢を仕立てる技。既製品の鉢にセメントで貝が埋め込まれています。南国風な植物もボリュームたっぷりで、かなり存在感があります。


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▲こちらはひもの技にインパクトがある一枚です。張り詰めたひもの緊張感と、フラワースタンドにのしかかられても耐えるしかない植物の健気さが伝わります。(そもそもひもの長さは足りているのでしょうか)

同じ人間は一人としていないように、植物と育て主の組み合わせの数だけ植木鉢が存在します。





3.植物に生気がある

私が植木鉢を見る時は以上のように、育て主のセンスや技ばかりに目をやってしまいがちです。
でも、植物があるからこそ植木鉢がこの世に存在しています。
植物に生気がある方が、やっぱり明るい気持ちになれます。



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▲風景としては面白いけど、植木鉢的に魅力を感じないのは植物に生気がないから…。


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▲鉢を食い破るくらい元気があって良いよね!





・植木鉢と育て主

良い植木鉢には、姿は見えなくても特定の育て主がセットになって必ず存在しています。
育て主のプライベートな感覚を公の場で発見出来ちゃうのが植木鉢の面白いところです。



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▲お釜と漬物樽鉢。台所が庭先にはみ出ています。

植物は、種類によって育つのがすごく速かったり、根が強かったり、時として人間の予想もつかない変化や現象を引き起こします。




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▲公道に侵食してくる植物たち


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▲植物のエネルギーが爆発しています。

そこに育て主の個性が加わります。
植木鉢に使われている技の端々に、育て主の姿を勝手に妄想するとっかかりが表れます。


例えば、以下の植木鉢7つが並んだ写真をご覧ください。
植物・鉢・鉢スタンド・ドアストッパーみたいな小物それぞれが同じ種類で揃えられていて、方眼紙のような黒いタイルの前に等間隔で並んでいます。
相当きっちりしている方なのかな~とズボラな私は少し距離を感じてしまいます。

右端の鉢は全体を左に詰めれば全部キレイに並ぶかもしれませんが、牛乳受けを使いやすくするために敢えて降ろしているのでしょうか。はたまた鉢スタンドを1つ買い忘れてそのまま下に置いているのかもしれません。
おっちょこちょいな一面もあるのかな、友達になれそうです。



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▲コピー&ペーストを繰り返された植木鉢。「コピペ」と呼んでいます。

植物のエネルギーと育て主の個性によって、増殖したり、枯れたり、矯正されたり、デコレーションされたり…と、その姿は変化に富んでいます。




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▲すっごい増えちゃったベコニア・ペチュニア・アイビー・ポトス…よくある植物四天王


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▲植物は枯れ枯れですが、アクロバティックなポーズとこの植木鉢をずっと残している家主の方のおおらかさが良いです。


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▲育て主の思うままに身体の形を変えられる植物。「肉体改造」と呼んでいます。


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▲お姫様と小人と花々がファンシーな王国を作っています。


庭先の装飾目的ではなく、駐車スペースの仕切りや目隠しの生垣感覚で使われている=働かされている植木鉢もあります。



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▲L字で駐車スペースを区切る植木鉢。


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▲公道に出ないように縁石の上にきっちり乗せられています。

植木鉢を鑑賞する時、基本的に育て主と会話をしない・ブツに触れないポリシーでやっているので技の真意はわかりません。わからないままの不透明さも気に入っています。なんでもかんでもわかったらロマンチックがなくなっちゃうじゃないですか。





・良い植木鉢の出没ゾーン

植木鉢の位置情報はGoogleマップには載っていないので、自分の足で見つけに行くしかありません。
人がいる地域にはかなりの確率で存在しますが、その特徴は場所によって異なります。
植木鉢との出会いは一期一会。運と勘は植木鉢鑑賞に欠かせない要素です。

商店街の裏路地、駅から少し離れた住宅地など生活感の強い場所は良い植木鉢にお目にかかれることが多いです。
お年寄りが多い地域も、良い植木鉢との遭遇率が高まります。(流行りに流されず個性が際立つ/住んでる期間が長いので人も植物ものびのびといられるので)

植木鉢は生き物なので、育てるのに時間がかかります。育て主が年単位でこつこつ時間をかけて作ってきた風景を一瞬のうちに目の当たりに出来るのは、なんと贅沢なことでしょうか。



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▲路地の両端にたくさんの植木鉢が。ご近所の関係が良くないと、ここまで広げられないだろうなあ。


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▲巣鴨にて。室外機を中心にアーチが作られています。これ作った人、心がすごく綺麗なんじゃないかな。

一か所良い植木鉢を置いているお宅があると、芋づる式に隣近所で遭遇できる確率が高くなります。「○○さんのお宅がやってるからうちでもやってみよう!」というノリで植木鉢を置くのでしょうか。
植木鉢を見始めて5年目くらいからは、良いゾーンにさしかかるとなんとなく気配を察知するようになってきました。


土地に根差したスナックや、ラブホテルの植木鉢も注目したいポイントです。
お客さんに「見られている」意識の高い育て主が織り成すデコレーションは必見。
一般家庭と比べて派手目でかわいらしい、だけどそんなにお高く止まっていない印象です。



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▲ママの可愛らしいセンスがキラキラと輝いています。


稼ぎ時のクリスマスシーズンは、パンチの効いた鉢達が店頭や路地を飾っています。



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明らかにクリスマス用の木じゃない植物をクリスマスツリーとみなしている強引さと、祭りを祝うハッピーな気持ちが表れていますね~。
枯れた木を捨てられない優しさと面倒臭さも伝わるとっても人間的な鉢です。




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▲クリスマス装飾のポップさと、ホテル街の殺伐とした雰囲気がシュールで最高です。


コリアタウンやドヤ街のような、独特な生活体系やコミュニティがある街の植木鉢はユニークなものが多いです。



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▲大阪の鶴橋・生野辺りにはこの形状の植木鉢が多かったです。


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▲東京の箕輪の植木鉢です。幹をまっすぐにするためか?金属の棒と幹がガムテープで繋がれています。ハードな植木鉢です。


逆に植木鉢の少ない地域は、開発の進んだ都心部(東京で言うと大手町、丸の内、有楽町、内幸町、霞が関など)で、完璧に管理された街中では良い植木鉢はまず見かけません。



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▲植物だけどなんだか無機質。


また山間部になるほど庭の面積が増え、植木鉢の数は減ります。民家の庭先は土に直植えした植物が彩ります。育てる人間の分母が少ないためか遭遇率は低くなります。



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▲長野県木曽郡で偶然出会えた植木鉢。台にがっつり公共のガードレールが食い込まれています。山をバックにした雄大な奥行は地方ならでは。

東京や大阪辺りの人口密度が高い都市は地価が高く、一般家庭のお庭はめっちゃ狭いです。
そんななかでも人は生活に緑の彩りと潤いを欲するもの。どうにかして植木鉢を置いています。
厳しい制約下で工夫を重ねるためか、個性豊かな良い植木鉢と遭遇しやすいです。




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▲色々な種類の台を使ったり窓枠に吊り下げてみたり、狭い場所に植木鉢を置くための工夫が見られます。

緑への憧れが植物と共に育ち過ぎてジャングル化していたり、夢破れていたり、まっすぐ健やかに育っていたり、お宅によって状況が様々なのも見どころの一つです。





・過剰な鉢センス


ごく稀に、育て主の独特なセンスが濃厚に伝わってくる植木鉢に出会うことがあります。
育て主の趣味嗜好や狂気が垣間見ることが出来ます。




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▲すっごい数の棒が刺さってる植木鉢。植物より棒の方が目に付きます。


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▲「お立ち台」と呼んでいるこの植木鉢、ポールとのフィット感が良いです。植木鉢を乗せるためなのか、違う目的で作られたのか…シンプルで、謎が際立つ一鉢です。


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▲年末の小林幸子みたいに豪華絢爛な植木鉢。こちらのお宅は季節で展示内容を変えていて、見る人を楽しませてくれます。


どんな植木鉢でもそれぞれのストーリーがあって面白いのですが、私が見つけて嬉しいのは育て主の感性がバッキバキに伝わってくる植木鉢です。
そう簡単には出会えないので、見つけられた時はラッキーとしか言いようがありません。
日常に現れた異世界の扉をちょっとだけ開けて中を見て、すぐ閉じるような感覚にぞくぞくしながら植木鉢を見続けています。


次回からは冒頭の分類図に沿って、植木鉢の良さを細かくご説明していきます。私・木村りべかが感じている植木鉢の魅力を少しでもお伝えしていけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。




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▲近年のお気に入り植木鉢写真です。犬の置物、コンクリートブロック、植木鉢、狸の置物、松の盆栽、レンガ模様の外装…謎の組み合わせが楽しく、絶妙な間合いで配置されている一枚です。




【著者】

木村りべか
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図画工作作家。植木鉢と動物とかわいいものに興味があります。