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道の駅になにげなく並んでいる手芸品。
地元のおじさんおばさんが作った手芸は、大量生産品にはない人間味が溢れている。
趣味の民芸「趣みん芸」と名付け、日夜研究をしている斎藤ようへい氏がその魅力をガイドする。


(著者:趣みん芸研究家・斎藤ようへい





【筆者】

斎藤ようへい twitter/instagram

 576NPhx9_400x400別視点副代表。写真狂のデザイナー




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道の駅で恋に落ちました。


それはそれはとてつもなくカワイイ子猫ちゃん、まさに一目惚れでした。
子猫ちゃんといっても、キュートでワガママバディのプリプリガールではありません。


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ハイッ!!


「ビニール紐ネコちゃん」です!!



クリクリしたボタンの目、ブルーボディに映える赤い鼻、体の中が丸見えなセクシーボディ。
そしてこのキュートな佇まい、一発でハートを撃ち抜かれました。


この子猫ちゃんがいたのは、道の駅の地元のおじさんおばさんが作ったものが売られている手芸品コーナー。
だいたいの人がスルーするあのコーナーです。

しかし、そこにはキラリと光る創作魂に溢れた作品がたくさん並んでいるのをご存知でしょうか。

それらの作品は丁寧に手作りされ、大量生産された既製品にはない魅力をもっています。
いい意味で肩の力が抜け、人間味に溢れたそれらの作品を親しみと敬意を込めて、趣味の民芸「趣みん芸」と名付けました。





趣みん芸をみてみよう


趣みん芸ってなに?

まったくわかりませんよね。
まずはいろいろと見てみましょう。
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▲「こけし人形 富士ちゃん」(制作者命名)


道の駅富士吉田で出会いました。

ザ・民芸のこけしも自由に作るとこうなります。
パッケージにモミジの装飾がされていていたり、持ち手がカラーワイヤーになっている気づかいに溢れた作品。爪楊枝の髪飾りが素敵です。

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▲「スイーツデコ」


手作りキットがベースになっていますが、ドーナツのデコレーションにオリジナリティを感じます。

価格は100円、キット代ジャストな価格設定でいくら売っても儲けはない作る喜びオンリーの作品です。
おそらく、売り上げはすべて新しいキット代になるのでしょう。



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▲「トイレプレート」


ニャンともワンだふるなトイレプレート。

趣みん芸には木工作品も多いです。手芸コーナーには、本業で木材加工をしている方の作品も多くありますが、こういった日曜大工の延長で作られた作品はなお味わい深いです。


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▲左から「ねこ」「カエル」「繭の妖精 まゆ子(制作者命名)」


山梨県中央市の名産、繭を使って作られたマスコットです。

趣みん芸はその土地の素材で作られることも多く、素材をどう扱うかが腕の見せ所。
この作品は繭の丸みをうまく生かしています。

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▲「ニワトリとヒヨコの親子入れ物」


福島県相馬市の道の駅で購入しました。
福島という土地柄は全く関係ありませんが、それもまた良しです。カワイイので。



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▲「イワちゃん」(制作者命名)


千葉県「海の駅九十九里」。地元の名産イワシをモチーフにしたぬいぐるみ。
細部まで作者の美意識が感じられます。作者の家は綺麗に整頓され、おしゃれな小物が飾ってあるに違いないでしょう。




独断と偏見!趣みん芸の3条件


いかがでしょうか。

なんとなくどんなものを趣みん芸をいっているのかおわかりいただけたでしょうか。
一口に趣みん芸と言ってもその種類は多様で、集めだした当初はなにをもってして趣みん芸と言えるのか考えました。

その中で、私の中で趣みん芸たりえる条件が3つほど見つかりましたので、ご紹介します。



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1、趣味であること

販売されているが、利益をだすことだけが目的でない。
作ること自体が目的となっているような、創作の喜びを感じられること。



2、手作りであること

ザ・民芸品のこけしでさえ電動ロクロがかかせません。
全行程が手作りでなくとも、手作りする工程があれば手作りとみなします。



3、独自性があること

スイーツデコにラメを施す程度でもいいので、その人のオリジナリティーが少しでも入っていること。



この3つの条件を持っているものを、独断と偏見で「趣みん芸」と判定します。
研究対象を絞るための条件なんですが、まだまだ研究は始まったばかり。微調整していくかもしれません……。




趣みん芸を楽しむ3つのポイント


最初は、趣みん芸のユルくてカワイイところ、作者の顔がホワンと浮かぶ人間味に注目していたのですが、いろいろと見て回るにつれ、それだけではないと気づきました。

そこで、趣みん芸を楽しむ3つのポイントをあげてみます。



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1.現代版に進化した伝統工芸

伝統工芸は、繊細な手仕事とその技術を長年積み重ねてきた歴史の結晶です。

しかし、制作者の高齢化や後継者不足の問題もあり、伝統工芸の担い手は減少傾向にあります。
木材や竹などの素材や道具の調達も難しく、ハードルが高いのは確かです。


このまま伝統工芸は失われてしまうのでしょうか?



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「いや…もしかしたら……伝統工芸って”趣みん芸”に姿を変えて、現代を生きてるんじゃないか!?」



そう、気づきました。

趣みん芸は身近な材料とアイデアで作られます。
木材や竹や和紙が、アクリル毛糸やアルミ缶や紙粘土に変わっただけ。
モノ作りで生活を豊かにする精神は同じです。

恐竜の進化が鳥であるように、趣みん芸を伝統工芸の進化として観察すると、ただのユルい手芸品に見えなくなってきます。
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アクリル毛糸で作られるアクリルたわしは、趣みん芸の代表的存在です。
ご当地アクリルたわしも豊富で、伊豆大島では「椿」を模したものもありました。

伝統的なたわし職人は減ってますが、アクリルたわし職人は全国各地に大勢いるんです。





2.型にとらわれない自由さ

ダルマならダルマ、こけしならこけし。
伝統工芸は長年守られてきた型に沿って作られます。
それ自体は素晴らしく、伝統を受け継いだ作品はそうあるべきです。

ただし、新しいアイデアを試す作品もないと、伝統は停滞し発展は難しくなります。
本業であればあるほど、型を崩す冒険は難しいのかもしれません。



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「でも……”趣みん芸”は伝統に縛られない!好き勝手が許される!」



実際、二股こけしなどいままで見たことない斬新な作品をたびたび発見しています。
もしかしたら、そこから新しい流派が生まれ、100年後のスタンダードが生まれるかもしれません。

新しい作風は全てがうまくいくとは限りませんが、作者が夢想した完成系を汲み取る面白さがあります。


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▲こけしの常識を超えた「二股こけし」


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福島県では土湯こけしや中ノ沢こけしといった伝統こけしが作られる。

そんな土地柄にあって、あえて独自の創作こけしを作る福島県いわき市の大関さん。
「二股こけし」や、男のあるべき姿を彫りこんだ「男の五カ条こけし」など斬新なこけしを生み出している。


関連記事:男の五カ条こけしって何?インディーズこけし作家「木楽遊夢」大関さんのこけし道





3.いつのまにか全国に広がってる


個人ではじめたのに、いつの間にか全国に広がっているものがあります。

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代表例はアルミ缶風車(風鈴)。
アルミ缶に切れ込みが入っていて風でクルクル回ってるやつです。

アイデアの面白さ、模倣しやすさ、害獣対策の実用性。
すべてを兼ね備えた完成度の高い作品なので、連鎖的にマネをしたのでしょう。

他にも、タオル犬やビーズアニマルなど、誰が始めたのかわからないが、いつの間にか全国に広がっている趣みん芸がいくつもあります。



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「生活にジワジワと入りこんで、すこし便利にしたり、すこし彩りを加えてくれる。
”趣みん芸”はiPodみたいに世界を一変させる発明じゃないけど、静かで偉大な発明なんだ!




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全国各地に増殖してるアルミ缶風車。
軽くて丈夫で加工しやすい特徴を活かして、ゴミになるアルミ缶を風車に仕上げたセンス……。脱帽です。




創作魂にプロも素人もない、すべてが等しく価値がある


最後に、私が趣みん芸に魅力を感じ探求する理由をすこしだけ。


私は東京別視点ガイド・ツアー関連のデザイン物を制作したりするデザイナーでもあるのですが、制作に対して果てしなく腰が重いことが悩みです。

子供の頃は、絵を描くことが大好きで、誰に頼まれるまでもなく、純粋に制作することの喜びを感じていました。

ただ、いつのころからか、作ることをやらなければいけない作業と捉え、昔の楽しさはどこへやら、むしろ苦痛を感じてしまうものになってきてしまいました。



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▲高校の文化祭のとき、3分で描いた担任の絵。下手だけど勢いと自信を感じます。友達が大事にとっておいてくれてて泣きそうになりました。


どうしてこうなってしまったんだろう?


無理やりにでも創作意欲に火をつけようと、美術展覧会巡りなどをしましたが、魂をド真ん中から燃え上がらせてくれるものはありませんでした。

逆に、作品のクオリティばかりが気になり、クオリティが高くないと制作すること自体が無駄なのではないかと思い始めてしまう負の連鎖も始まってしまいました。


そんなときに出会ったのが、冒頭に紹介したビニール紐ネコちゃん。

ビニール紐を器用に編まれて作られた、まぎれもない傑作なのですが、クオリティのドヤ感がなく、作り手の純粋な制作の楽しさが伝わってきました。

このネコちゃんは500円。

制作の手間を考えたらどう考えても赤字です。
儲けるためとか、名を上げるためでもない、ただ作りたくて作ったもの。
その純粋な創作魂に感動しました。



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プロ作家の超人的な技術で作られた作品は間違いなく素晴らしいです。
ただ、趣みん芸の純粋な創作魂で作られた作品も同様に素晴らしい。

これから「わたしの趣みん芸」では、多様に広がる現代の民芸「趣みん芸」の世界を紹介するとともに、制作者へのインタビューを通して「創作魂(作ること)」の価値を見つめていきたいと思います。

よろしければどうぞおつきあいください。




【筆者】

斎藤ようへい twitter/instagram

 576NPhx9_400x400別視点副代表。写真狂のデザイナー