団地・ダム・マンホール・テトラポット……。
超ニッチでマニアなモチーフばかりのアパレルブランド「マニアパレル」。
ニッチで好きなものしか作らない制作方針にもかかわらず熱烈に支持されている。
その秘訣を主宰のBADON(バドン)さんにうかがってきた。

テトラポッドのぬいぐるみ……


うどんそばの自販機のTシャツ……


送水口のTシャツ……


坂道の止まれ表示のてぬぐい……
(正式名称:真空コンクリート 真空リング刷毛引き仕上げ工法&止まれ表示てぬぐい)

(正式名称:真空コンクリート 真空リング刷毛引き仕上げ工法&止まれ表示てぬぐい)

ダムてぬぐい……
(昔の青焼き図面風。広げれば現場監督だ!)

ビルのタイル柄ぽち袋……


(昔の青焼き図面風。広げれば現場監督だ!)

ビルのタイル柄ぽち袋……


超二ッチでマニアックなモチーフばかり。
アパレルブランド「マニアパレル」の商品群だ!
「こんなマニアックなの買う人いるの??」
いやいや、それがもう12年も続いてるんですよ。
各種マニアたちの熱烈な支持をうけ「もうやめて~~!そんなに心くすぐる商品出さないで~~!」と、シャレで「マニアパ被害者の会」が結成されてるほど。
あっという間に売り切れになることもしばしば。
いわゆる「中の人」のファンも多く、ダム施設の職員さんや某省の職員さんも常連さん。
映画監督の樋口真嗣氏もメイキングでダム手ぬぐいを巻いていた。
そんなマニアパレル人気の秘訣を、主宰のBADON(バドン)さんにうかがってきた。

団地が好きすぎて、団地に住んでる

▲団地界のクールビューティー「ツインコリダー型集合住宅」Tシャツ
ーーバドンさんご自身が団地マニアだとか
バドン:はい!団地が好きすぎて、団地に住んでます。
団地ってかわいいのに、ネットがない時代は周りに理解者が見つからなかったんですよ。
2005年ごろ、ネットがきっかけで「住宅都市整理公団」っていう団地サイトの運営者・大山顕さんと出会いまして、団地イベントに登壇者で誘われました。
でもねえ、団地のイベントでしょ。
誰も来ないんじゃないかって疑心暗鬼だったんですけど、結果は超満員。
「団地の手すりがかわいいよね!」ってコメントにドカンドカン沸くんです。こういう世界があるんだって驚きました!
ーー自分の好きが共有できると嬉しいですよね!
バドン:そのイベントでダムマニアの萩原雅紀さんとも出会って「ダムのDVDを出すからさ、ダムトークライブやるんだよ」って。


ーー数珠つなぎでマニアと出会ってく。
バドン:趣味でロゴデザインやってたんで、バナナのDoleを「Dam」にしたり、ダムのパロディロゴをたくさんmixiに上げたんです。
それが関係者の目に止まって「シールにしてさ、ダムトークライブで配ろうよ!」と。
登壇者のユニフォームとして、パロディロゴのTシャツも作りまして。最低ロット数あるんで、どうしても多く作り過ぎちゃうんですよ。
で、試しに「作りすぎちゃったんですけど」ってTシャツを会場で売ってみたら即完売!
我慢できずその場で着替えちゃう人もいたし、買えなかった人も「絶対、通販してください!」って懇願されて、すごく嬉しかったですね。


▲写真集「工場萌え」とのコラボTシャツ
そのイベントがきっかけで、マニアパレルは活動を始める。
最初期はmixiで好きなデザインに投票してもらい、注文数だけ作るというスタイル。今でいうクラウドファンディングみたいなものだ。

自分の好きなものしか作らない、いや、作れない

▲「バイコヌール火力発電所の冷却塔」Tシャツ
ーーマニアから要請があればなんでも作るんですか
バドン:いえいえ。自分が興味を持てないものは作らないです。というか、作れません。
愛情を注げないと、どこに魅力があってどう見せればカッコイイか思いつかなくて作れない!
たとえば鉄道関係はファンのすそ野が広いし売れそうだけど、興味が浅いのでいまのところあまり作ってません。
ーー売れるかどうかじゃなく、グッとくるかどうかで判断してる
バドン:旧ソビエト連邦を愛でるイベントで、Tシャツ制作の要請がありまして。
登壇者さんからリクエストあって作ったのが、バイコヌール火力発電所の冷却塔のTシャツだった。
普通、バイコヌールといったら宇宙基地ですよ!
「そっちかい!」ってツッコまれました。
ーー旧ソを愛でるイベント、バイコヌール火力発電所、宇宙基地……。初耳の単語だらけでどういうツッコミなのかも分からないですが……。
バドン:ははは、ですよね!バイコヌール火力発電所ね、放熱状のトラスが緻密に組まれてて、いかにも旧ソビエト連邦的なノリの建築物。これがカッコイイんです!
超ニッチですけど、そういうモチーフは好きな人はとことん好き。
不特定多数を狙うより、本気で欲しがってるマニアにビシッと刺さるものを届けたい。そんな気持ちです。

▲群馬の標識Tシャツを着てるバドンさん
最悪、赤字でも給料をぶっこめばいい

▲群馬の標識Tシャツを着てるバドンさん
ーー普段は会社員なんですよね。アパレル関係とかですか?
バドン:いえ、違いますよ。全部独学で趣味。友人とネットに助けられまくりです。
マニアパ(※マニアパレルの略称)をやり続けてデザインスキルが向上しました。
サラリーマンの趣味なんで、無理に売れ線を狙わなくてもいい。
それがほんとに作りたいものだけをブレずに作れてる秘訣ですね。
それがほんとに作りたいものだけをブレずに作れてる秘訣ですね。
最悪、赤字が出ても給料とボーナスぶっこめばいいですし(笑)
ーーマニアパさんのデザインってエッジがまろやかでぬくもりがありますよね
バドン:いかにもPCで作りましたって、パキッとしたグラフィックは嫌で。流出した機密文書とか、マイクロフィルムを複製したようなザラッとした質感を表現してます。
いったんIllustrator(※)で作ったデータを、Photoshop(※)に移してピントをぼかしてます。正直、この処理はすっごい手間がかかるんですけど、無駄にこだわってますね。
(※)どちらもグラフィックソフト。
ーー細部のこだわりに魂が宿ってますね
バドン:こんなこというの恥ずかしいですけど、好きな人にラブレターを書くつもりで作品を作ってます。


▲テトラポットをお部屋に「テトぐるみ」
ーーこのクッション、すごくかわいいですね!
バドン:ありがとうございます、テトラポットのぬいぐるみ「テトぐるみ」です!
波を防ぐための機能的な造形美、どことなく原始的なムード、あんなかっこいいものありませんよね!
どうにかして部屋にテトラポットを置きたい。それが発想の原点です。
ーーやはりテトラポット愛からのスタートですか
バドン:ただ、制作は大変でしたよ!
まずは生地探し。この生地にたどり着くまで1年かかりましたから!
まずは生地探し。この生地にたどり着くまで1年かかりましたから!
布屋を巡り倒して、とうとう見つけたのが車の内装用フェルト。
薄いけど硬いのでエッジがビシッと決まる。薄いグレー、濃いグレーの2種類あって、水に濡れたコンクリ、乾いたコンクリの色の違いも表現できる!
興奮しましたね。
ーー生地探しに1年!
バドン:次は形状ね。同じくテトラ好きで縫い物が得意な友だちに試作を作ってもらったら、ハンドメイドで優しい雰囲気になっちゃった。
普通のぬいぐるみならそれでいいんだけどテトラポットですから。工業製品のカッチリした同一感が出ないといけません。
ーーああ!むしろ大量生産って感じじゃなきゃいけない
バドン:業者に頼むと最小ロットが1000個から。ハードルが高いの!
何軒もぬいぐるみ業者を当たって、熱意をぶつけました。「そんなに作りてえのか。あんたの気持ちは分かった」って100個単位で作ってくれるとこがようやく1軒見つかりました。
それでも納品されたら家の天井までダンボールの山……。
かみさんに内緒で動いてたので「なに、これ!?どうすんの!!」って怒られました(笑)


ーー熱意と愛でどうにかなるもんですね!ただ在庫は大変だ……
バドン:ピンチになると助けてくれる人が不思議と現れてくれるもので、ジュンク堂書店さんがマニアパのコーナーを設けてくれたり、一緒に樹海めぐりしてた友だちが倉庫を貸してくれました。
これにはほんとに助かりました。

これにはほんとに助かりました。
「好き」を着よう。Tシャツは仲間発見装置だ!

▲その形状から通称ジラフ(キリン)と呼ばれている「ガントリークレーン」Tシャツ
バドン:小さい頃からインフラやインダストリアルなモノが好きだったけど、分かり合える友達になかなか出会えませんでした。
それがインターネットが普及して、マニアパレルをやって、仲間が見つかった。
「ガントリークレーンが好きだ!」って大声で言うのは難しいけど、ガントリークレーンのTシャツを着ることなら簡単。
「ガントリークレーンが好きだ!」って大声で言うのは難しいけど、ガントリークレーンのTシャツを着ることなら簡単。
町で着ててもなるべく変じゃないデザインにしてますし、それだけで自分の「好き」を表明できますよ!
ーーTシャツがきっかけで「君、それ好きなの?」って会話が始まるかも
バドン:Tシャツが仲間発見装置になったら最高に嬉しいですね。
話しかけないまでもマニア同士なら「あ!ガントリークレーンだ!」って絶対意識しますから。
ーー今後の活動方針を教えてください
バドン:マイナーな趣味だからこそ「好き」を共有できるって幸せですよね。
万人に受けなくてもいい、好きなことやこだわりを丁寧に仲間へ届ける。これがマニアパレルの方針です。
そこはブラさず活動していきます。