駅員さんが作った自由奔放な案内標識「野良サイン」。
野良サインの研究家にして名づけ親でもある、ちかくさんと渋谷駅を探索した。
みなさんは「野良サイン」をご存じだろうか?
分からないという方も、意識したことがないだけでかならず目にしたことがあるはずだ。
たとえばこういうもの。
こんなのも野良サイン。
サインとは駅や商業施設に取りつけられた案内標識のこと。
決まったフォーマットで書体や色が同じなのがオフィシャルサイン。
対して、駅員さんが作った自由奔放な標識は『野良サイン』と呼ばれている。
蒲田の思い出:これとの遭遇 #norasign (@ 蒲田駅, 2018-02-08) pic.twitter.com/GAOWxuecpI
— ⭕️ちかく (@ooooooooo) 2018年2月18日
野良サインの研究家にして名づけ親でもある、ちかくさん。
2009年から野良サインを見続けている。
「デザインを勉強してたこともあって、最初は駅のオフィシャルサインってかっこいいなって思ったんです。フォーマットがキレイに整って、会社ごとにデザインも違う。いいなって」
「でも、予期せぬ手作り張り紙がいるんですよ。あちこちに。なんでこんなの貼っちゃうの、ノイズだよってがっかり感があって。存在が気になり始めたんです…」
最初は「とりあえず存在をおさえとくか」って軽い気持ちで撮りはじめたが、じょじょに「オフィシャルサインじゃフォローしきれない部分があるし、しょうがないな」と心を許していき、「野良サインは思いつきで作ってるから誰も記録してない!自分がやらなきゃ誰がやる!」と使命感に辿り着いてしまった。
少女漫画の恋心ではないか。
▲卒業制作で作った「野良サイン考現学」
最終的には、野良サインを大学の卒業研究として1冊の本にまとめあげた。
現在でもtwitter「野良サイン」を運営したり、銀座線の野良サインを集めた同人誌を作ったりしている。
そんなちかくさんと野良サインだらけの渋谷駅を散策した。
渋谷駅は野良サインだらけだった
この黄色い看板はオフィシャルサイン。
しっかりした素材に分かりやすいデザイン、見やすいところにそなえつけてある。
対して写真中央の野良サイン。ラミネート加工された紙っぺらに「ヒカリエ→ ←マークシティ」と書かれてる。
渋谷はヒカリエ完成後、その方向を指す野良サインが急増したそうだ。
たしかに意識して探すと、あるわあるわのヒカリエ攻勢。
ほかに用事があってもヒカリエに導かれてしまいそうだ。
オフィシャルの出口・のりかえ案内図。
近づいてみると……
ガムテープで消されたり、テプラで追記したり。
こういうオフィシャルに付け加えて、野良サイン化するパターンもある。
「同じガムテープで隠すにしても、サインに直接貼ってる部分とガラスの上から貼ってる部分がある。パルコはいま建て替え中で、いずれ剥がす予定だから、暫定的にガラスに貼ってるんじゃないでしょうか」
階段の上がり下りを指示するオフィシャルサイン。
振り返ると野良サイン。
柱にも階段の通行方向を指す野良サインがあった。
やじるし部分を触ってみるとデコボコしてる。床に貼るべきオフィシャルのやじるしシールをそのまま使ってるようだ。
これもまた野良とオフィシャルのコラボの一形態。
一般的なプリンターで印刷可能なサイズをつなげ、路線図を作っている。
大きなサインにするため1文字ずつプリントするパターンも多い。
ワードアートで作ると枠のギリギリまでパツパツになるそうだ。
ワードアートで作ると枠のギリギリまでパツパツになるそうだ。
解像度低くてギザギザなアイコン。
解像度の高いものを用意しないところに「まあいいか」というおおらかな製作者の性格が出ている。
大規模工事をしてる渋谷駅周辺。
仮設のバス停はほぼすべてが野良サインで構築されてる。
ワードにある図形を工夫して組み合わせ、地図にしたとおもわれる。
液晶モニターに映す野良サインもある。
これは「野良サインを作ったことを自慢するポスター」だ。
サービス品質よくするプロジェクトの一環で、野良サインを増やして、その報告をしてる。
路線によっても、だいぶ違いが出るようだ。東急のあたりはすっきり。
あまり野良サインが見当たらない。仮設のサインはあるが、オフィシャルと同じような整ったデザインのものばかり。
JR側に比べれば人通りが落ち着いてることもあるのだろう。
同じ渋谷でもJRのほうがいかに野良サインで溢れかえってるか。比べてみるとよくわかる。
「右側通行!右側通行だから!!」「またヒカリエの場所聞かれた!こっちこっち!」
駅員さんたちの叫びが大きくなればなるほど、野良サインは増えていく。
野良サインはデカくてしつこい
▲巣鴨駅の野良サイン。デカくてしつこい。(野良サイン考現学より)
――野良サインってこんなあるんですね!驚きました。
ちかく:巣鴨も高齢者が多いこともあって、たくさんありますよ。駅によって特徴があって、巣鴨の野良サインは文字がめっちゃデカい!
この写真見てもらうと分かるけど「←きっぷ売り場」ってデカくて、何度もしつこい。
公式サインもあるんだけど、こうしてみるとすごく小さいんですよね。
――ほんとだ!同じ内容で2つでっかいの貼ってある。
ちかく:浅草橋駅だと「浅草じゃないぞ」って主張する野良サインがすっごい多い。それだけ駅員さんに聞く人が多いんでしょう。
▲人力サインまで投入している。(野良サイン考現学より)
ちかく:「しつこい」のは野良サインあるあるで、この写真なんてすごいですよ。
エスカレーター停止中なんですけど、文字と矢印だけじゃ飽き足らず、人力サインまで投入してますから。
ーー人ってパターンもあるのか!ここまでしつこくやらなきゃ伝わらないんですね。
●3年ごとに銀座線全駅の野良サイン収集してる
ーー野良サイン収集で遠出することってありますか?
ちかく:いえ、出かけた先にあったら撮るぐらいです。
でも、銀座線だけは3年ごとに全駅巡って収集してますね。
ちょうど先週やったんですけど、体力いるしクタクタになるんで、それぐらいの周期がちょうどいい。
ーーそれ、一日で終わります?
ちかく:はじめた頃は1日で全駅巡れたけど、年を経るごとに「出来るかぎり丁寧にたくさん出口を見ておこう」とか考えちゃって……。
もう、2日かけないとクリアできないです。
▲同じ場所の野良サインの変遷。キップの値段も変わってる。
ーー3年おきで何か変わりましたか
ちかく:定点観測してると分かるんですが、だんだんおとなしめになってますね。キップの値段が変わって、張替えになってるものもありますし。上野も浅草も渋谷も通る路線なので、外国人観光客が多くなってる。それにしたがって外国語の野良サインも増えてます。
ーー野良サインからグローバル化の流れも掴めるのかあ
ちかく:銀座線は「この改札から入ったら渋谷方面にしかいけない」みたいな駅が多くって、それを防ごうとして野良サインがどうしても増えちゃう。
駅をリニューアルしてさっぱりしても、構造が分かりづらいからどうしても野良サインが生まれてきちゃうんですよ。
▲「太子楼五體字類」
ーー銀座線の野良サインは同人誌にしてますよね。
ちかく:そうですね。2009年、2012年、2015年の探索をまとめて「銀座線で見た野良サイン」って本を出してます。
はじめての同人誌は野良サイン関係なくって。中華料理屋のマスターが黒板に書いた文字をまとめた「太子楼五體字類」って本だったんですよ。
コミティアやコミケとかのイベント、同人誌専門の本屋で売ってます。
ーーえ、そんなん本になります!?
ちかく:チョークなのに筆書きみたいに抑揚があって、同じ文字でも日によって全然違うんです。
のんびりしたおじいちゃんだったけど、もうお店は潰れちゃいました。
やっぱり「これを撮るのは自分しかいない!」って使命感で撮り始めて。
●人の少ない土曜の朝や発車直後を狙う
▲天井にあった野良サイン。誰が見るのか(野良サイン考現学より)
ーー遅刻しそうなときに野良サイン見かけたらどうしますか?撮ります?
ちかく:時間がないときはムリに撮らないです。「これはヤバい!」っていいやつなら後日見に行くこともあるけど。
見過ごしたとしても苦にならない。すべて撮ろうとおもうとキリがないんで。
ちかく:駅は人通り多いし、立ち止まるのが難しいんですよ。ひとり撮影が疲れる理由の一つはそこ。
人に迷惑かけてしまわないかが心労ですね。
電車が発車してすぐとか人がはけるタイミングを待ちますし、土曜の朝とか人がいない時間を狙って行きます。
ーー逆にやってて良かったことは?
他の人が見てないものを見るのは楽しいですね。いいもの見つけたなって気持ち。ライフワークです。
徐々に知らない人が野良サインってワードを使いはじめてます。仲間ってほどじゃないけど、野良サインを見る人が増えてる実感がある。
最終的には色んな人が見てくれて、自分が見なくても良くなったらいいですね。
◇ちかくさんTwitter
◇野良サインTwitter
◇Eidantoei(同人誌の購入)
いや~僕は29年間生きてきて、こういう野良ポスターを意識した事はなかったですねー。笑
世の中には、本当に色んな人がいるんだなぁと改めて思いました。
思い出残しが好きな方だと、遊びに行った先(観光名所、テーマパーク、道の駅など)で販売してる「ポストカード」集めとかオススメですねー。
基本的に有名な所だとほぼ確実に販売してますし、値段も安いですし、ハガキとほぼ同サイズでスペースも取りませんし、何より記憶に残りやすいので、とてもオススメです。
今では、20枚ぐらいコレクションしてます(^^)