道に落ちてるものを撮り続ける「落ちもん写真家」と
バケモノじみた植物をこよなく愛する「路上園芸学会」のコンビが
いいサボテンを巡る旅、サボテンお遍路をスタートします。
プロローグ 第0番札所・谷中椅子(2018年4月某日 東京都台東区)
4月某日、東京・鶯谷。
駅の周りはカラフルなラブホテルや小さな飲み屋がひしめき、やや猥雑な雰囲気だが、大通りから脇道に逸れると、静かで緑の多い住宅街が広がっている。
その日いつものように、よっちゃんこと藤田泰実(よしみ)さんと二人で、なんてことない住宅街を、とりとめもなくほっつき歩いていた。
よっちゃんは、道に落ちているものを「落ちもん」と名付け、見つけるたびに写真に撮り続けている「落ちもん写真家」。
本職のデザイナーらしく、地面の模様と落ちもんが織りなす構図の美しさを切り取るだけでなく、落ちもんの背後に垣間見える人間ドラマを想像している。(参考記事)
そしてわたしは「路上園芸学会」こと村田あやこ。
街角で人の手を半分離れ、異様な生命力を放つ植物に惹かれ、ひとり勝手に学会を名乗り、その奇景の魅力を細々と発信している。
最近のブームは根っこ。花見の代わりに根っこを見る「根見会」も開催した。(参考記事1、2)
そんな私たちは「SABOTENS(サボテンズ)」というユニット名で、路上ではみ出した様々な光景をグッズ化したり、展示やイベントで発信している。
しかしメインの活動内容は、なんといっても「散歩」。
落ちもんと街のバケモノ植物に取り憑かれた私たちにとっては「なんてことない住宅街」こそお宝の宝庫。一見「散歩」風を装いつつも、ハンターのように目をぎらつかせ、鼻息荒く街を闊歩しているのである。
巨大なサボテンに出会ったのは、そんな鶯谷界隈の閑静な住宅街の中にある、とある町工場の前だった。
で、でっかい!
「谷中椅子」という看板から察するに、家具屋さんだろうか。
わずかな植え込みスペースから生えた柱サボテンが、ガレージを這うように二階のベランダまで伸びている。
茎のあちこちが紐で家屋に支えられ、家主の方のサボテンへの愛情と、通行人への気遣いが感じられる。
ぜひいろんな角度から眺めてみようと、壁の向こう側へ回り込んだところ、壁の配管にふとした違和感を覚えた。
じっと目を凝らして見てみたら、なんと小さな植木鉢に植えられたサボテンが、配管に固定され長ーーーーーーーく伸びているではないか。
なな、なんだ、このサボテン御殿は!
ズキュンと胸を射抜かれた私たちは、撮影許可をいただこうと、ドキドキしながら玄関へ向かった。
「すみませ〜ん」
出ない。
もう一度。
「こんにちは〜、すみませ〜ん」
「は〜い」
玄関から登場したのは、優しそうな家主の方だった。
宗教の勧誘に間違われぬよう、精一杯の爽やかな笑顔を浮かべ(余計あやしい)、表のサボテンがすごいので写真を撮らせていただきたい、とおそるおそるお願いしてみたところ、「おおー、いいよ。見ていって。」とご快諾いただいた。
ありがたや。
早速さまざまな角度からこの巨大サボテンを眺め、写真に収める。
下から見上げてもなかなかの迫力。看板とのコラボがいい。
紐で結ばれるサボテン親子。
紐のチョイスと縛り方に、なんとも言えない優しさが垣間見える。
建物の下では、釜飯の器を舞台にパンジーの花畑が広がっていた。
「わー」「すごいね」と、よっちゃんと二人、歓声をあげながら写真を撮っていたところ、奥から家主の谷中(たになか)さんが出てこられた。
手元のファイルからおもむろに取り出し見せていただいた写真には、現在のサボテンよりさらに巨大なサボテンが写っていた。
どっひゃあ!伸びに伸びたおばけのようなサボテンが、建物をガシッと掴むように、屋根を追い越している。ものすごい迫力!
詳しくお話を伺ったところ、現在のサボテンは、実は二代目とのこと。
もともとここには写真のような、さらに巨大なサボテンが植わっていたそう。
当初は、玄関のドアくらいのサイズだったのが、丹精な手入れの結果、30年かけて屋根を追い越すほどの大きさにまで成長した。
写真だけでもその迫力に驚くが、やはり実物は相当なものだったようで、テレビ局がたくさん取材にきたり、見物に訪れた人もいたりと、この界隈の名物だったそうだ。
サボテンを育ててみたいという人には株分けすることもあったそうで、東北から四国まで、各地に子株が旅立っていったとのこと。
しかし東日本大震災で地下の水道管が壊れ水浸しとなり、残念ながら根腐れしてダメになってしまった。そこで、ご友人宅に里子に出していたサボテンの一部が戻ってくることになった。
それが今のサボテンだそうだ。
旅立って行った子株の一つが、また故郷に戻ってきて錦を飾っているというのは、なんだか素敵な話だ。
しかし今の状態でもすごいが、前はさらにすごかったのか。見てみたかった。
谷中さん曰く、このご友人Oさん宅のサボテンがさらにすごいとのこと。
うわ〜、それはぜひ見てみたいね、とよっちゃんとキャッキャと話していたところ、
「それじゃあ僕の代わりに見に行って、これを渡しておいて。連絡しておくから。」
と紙を渡された。
なんと、Oさん宅の住所とともに、Oさんへのメッセージが書かれたハガキだった。
聞くところによると、Oさんとは古いご友人だが、久しくお会いしていないとのこと。
こんな初対面の怪しい女二人組に、大事なご友人へのメッセージを託していただくなんて。その心意気にグッとくる。
…その瞬間、ピンときた。
もしやこれは「サボテンお遍路」の火蓋が切られた瞬間ではなかろうか。
「サボテンお遍路がしたい。」
実は前々からよっちゃんが、そんなことを言っていた。
いろんな場所で、迫力あるサボテンを探してまわりたい。
それも八十八ヶ所。
当初そう言われた時、「う、うん」といちおう頷いてみたものの、正直あまり現実味を感じなかった。
いや、サボテンは大好きだ。でも八十八ヶ所も見つかるのかな。
ま、いつかできたらいいね。
そんな話を時折思い出したようにしながら、数ヶ月が過ぎた今日。
この谷中サボテンに出会い、電光石火のごとく「今だ!!!」と確信した。
巨樹もいいが、路上で時おり見かける巨大化したサボテンの迫力たるや、とてつもない。
サボテンはもともと雨の少ない砂漠や荒原、高山地帯出身。茎を太くして体内に水を蓄え、葉っぱをとげに変えて、厳しい乾燥に対応する体づくりをしてきた。その独特の姿かたちが路上で放つ異様な存在感。
各地のこれぞというサボテンを探し求め、ひたすらびっくりしながら旅できたら、どんなに楽しいだろう。
さらに今回は、手紙を託され、次なるサボテンへ向かう道しるべまでできてしまった。
このサボテン数珠つなぎ、乗るっきゃない!
必ずや、メッセージを届けさせていただきます。
そんなわけで、SABOTENSのサボテンお遍路八十八ヶ所の旅がはじまった。(続く)
イラスト:藤田泰実(SABOTENS)
文章:村田あやこ(SABOTENS)
【著者】
SABOTENS(記事一覧)
路上に落ちているアイテム(=落ちもん)に着目し撮影し続ける「落ちもん写真家」の藤田泰実と、街角の園芸活動や育ちまくった植物に魅力され「路上園芸学会」名義で魅力を発信している村田あやこの二人組。路上にはみ出す光景のおもしろみを写真展示やグッズなどで発信している。
SABOTENS(記事一覧)
路上に落ちているアイテム(=落ちもん)に着目し撮影し続ける「落ちもん写真家」の藤田泰実と、街角の園芸活動や育ちまくった植物に魅力され「路上園芸学会」名義で魅力を発信している村田あやこの二人組。路上にはみ出す光景のおもしろみを写真展示やグッズなどで発信している。
<イベント告知>
サボテンお遍路をするSABOTENS主催の、ワークショップとトークイベントです。
はんこを使って紙の上に路上園芸を作ったあと、バーチャル家主の内面や、路上ではみ出す光景を空想地図作家の地理人さんとともにプロファイリングするよ!
イベント名:路上はみだし研究会
日時:2018年6月3日(日曜)
■昼の部:ワークショップ
内容:路上園芸の宝庫・向島を散策した後、はんこで二次元路上園芸づくりを行います。
小雨決行(荒天の場合は屋内)
時間 14時〜16時
参加費 1000円+ワンドリンク代(500円+お土産付)※
※iKKAおすすめ飲み物をご用意します
定員 10名程度
案内役 SABOTENS(藤田泰実・村田あやこ)
■夜の部 :トークイベント
内容:地理人さんをお迎えし、はんこで作った二次元園芸を分析します。
時間 18時開場 18時半開演〜20時半頃終演
参加費 1500円+ワンドリンク代(500円)
※iKKAおすすめ飲み物をご用意します
定員 20名程度
出演 地理人、SABOTENS(藤田泰実・村田あやこ)
■会場
甘夏書店
〒131-0033 東京都墨田区向島3丁目6−5
http://d.hatena.ne.jp/amanatsu_shoten/20171231
■お申込・お問い合わせ
sabotens.tokyo@gmail.com
※お名前・人数・お電話番号・「昼の部」「夜の部」どちらへ参加ご希望かをお知らせください。
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地理人さん プロフィール
1985年生まれ。7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描き、現在も空想地図作家として活動を続ける。
大学生時代に47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけ、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな街の見方を模索している。著書『みんなの空想地図』は話題を呼び、タモリ倶楽部やアウトデラックスなどでも取り上げられるなどしている。