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街角の園芸や植物に魅了され、「路上園芸学会」として活動する村田あやこさん。
植物の根っこにハマりすぎて、根っこ天国の宮古島に出かけたレポートです!





【著者】

村田あやこ
 (twitter / Instagram / tumblr / facebook)

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路上園芸鑑賞家。街角の園芸や植物に魅了され「路上園芸学会」名義でほそぼそと魅力を発信。


根っこを求めて、南へ


あるとき急に、根っこにハマり根っこを見る「根見会」まで開催し、家族をやや戸惑わせた。
ここ2、3ヶ月の自分の近況報告をダイジェストすると、そんな感じだ。

急にこんな話をされても、唐突に思われる方もいるだろう。
「根っこ」とは、ご想像の通り、樹の根っこのこと。

植物界では「花」はメジャーだが、「根っこ」というとあまり目立たない存在かもしれない。
おまけに根っこ関係の言葉は「根に持つ」とか「根深い」とか、なんだか陰気でめんどくさそうなイメージのものが多い気すらする。





しかしサブちゃんこと北島三郎氏は、1998年に発表した名曲「根っこ」の中でこう歌っている。

「花には枝あり幹がある。目にこそ届かぬその下に忘れちゃならない根っこの力」と。
そう、忘れちゃならない。サブちゃんは20年前に、すでに問題提起していたのだ。

「ハ?根っこ?」とまだピンとこない方に、根っこの魅力をかいつまんで述べると、「造形の妙」、「力強さ」、そして「パンチラ感」である。



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アバンギャルドで変幻自在な造形、巨大な樹を時にアクロバティックに支える力強い佇まい、不意に地上に現れた姿のパンチラ感、もとい「根ッチラ」
樹のあるところには根っこあり。ちょっとこれらを意識して根っこを眺めてみると、その奥ゆかしくも頼りがいある存在に、次第に心奪われてゆく。

まだ見ぬ根っこを求めて色々と調べるうちに、南の方では、本州ではなかなかお目にかかれない様々なタイプの根っこが見られるらしいと知った。
根っこというと、つい地中に埋まった姿を想像しがちだが、南の方では、なんでも根っこが堂々と地上にはみだしまくっているらしい。
それは…根ッチラどころの騒ぎじゃないかもしれないぞ…。


いてもたってもいられなくなり、早速南へ行くことにした。

行き先は宮古島。
沖縄本土のさらに南だし、なんとなく根っこがすごそう。

…根っこが主目的のわりに、なんだか雑な理由で決めたことには突っ込まないでいただきたい。
とにかく南へ向かう。それが重要なのだ。

結論からいうと、宮古島はめちゃくちゃ根っこの島であった。



夢にまで見たマングローブの根っこと、いざ対面


羽田空港から沖縄空港へ向かい、そこからさらに飛行機を乗り継ぎ1時間。宮古空港へ着く。
空港の中庭では亜熱帯の植物がワッサワッサと繁っていた。


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葉っぱの勢いがすごい。観葉植物として関東では屋内で見られる植物たちだが、こと宮古島となると、南国の光と空気を存分に浴び、本来の生命力を謳歌しているかのように見える。
ザ・元気!な植物を見て、南国へやってきたことを実感する。

こいつぁ根っこもすごいに違いない。
一気に期待が高まる。


空港からレンタカーで向かったのは、島尻という場所にあるマングローブ林。
マングローブとは、海水と淡水が混ざり合う「汽水域」と呼ばれる湿地に生える植物の森林のこと。
泥土に根ざすため、柔らかい土壌で身体を支えたり、空気中から酸素を取り込むため、根っこが特殊な形をしている。
宮古島に来たからには外せない根っこだ。

じつは出発前、マングローブ見たさあまり、夢にまで出てくるほどだった。




島尻のマングローブ林は、なんと宮古島最大規模らしい。

ってことは根っこの量も…… 想像するだけでヨダレが出てくる。
わくわくしながら車を走らせていると、向こうのほうにマングローブが見えてきた。



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うぉー!

夢にまで見たマングローブがいまここに!



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根っこ、すっげーー!!!

こんもりふくらんだ葉の下に、わしゃわしゃとタコ足状のものが四方に盛り上がり、土に根差している。「支柱根」と呼ばれる根っこだ。それが向こうの方まで一気に続いてる。
いやもうこれ、根っこの森ではないかッ!!!



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遠目に森の上の部分だけ見ると、こんもりと葉が茂り見たことある森の姿に見えるが、徐々に視線を下に動かすと、土の上にはあらわになった根っこだらけ。
そんな根っこ同志が、壮絶に絡まりあった状態ではるか向こうまで続いている。

うひゃー。



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宮古島に住む人にとってはおなじみかもしれないが、こんなに惜しげもなく根っこがはみだしまくってる光景は、なかなか見られるもんじゃない。
島尻のマングローブ林には遊歩道が整備されており、マングローブ…もとい根っこの森をじっくりと鑑賞しながら歩くことができる。

たまらん。



さらなる根っこを求めて、森へ


しかし人間とは欲深いもの。ひとつ刺激に慣れると、もっと強い刺激を求めたくなる。
遊歩道からの根っこ鑑賞、一つ難点をあげるとすれば、根っこまでの距離がやや遠いということ。できることなら、もっと近くでなめまわすように見てみたい。

そんな自分を見越して、翌日は至近距離で根っこを味わうべく、地元のツアー会社でツアーを予約しておいた。
午前中は森、午後はマングローブへ分け入り根っこを見まくるという、根っこ二本立て。今回の旅のメインの目的といっても過言ではない。

まず向かったのは、宮古島市熱帯植物園。植物園の裏に広がる島で一番大きな亜熱帯の森を、現地の自然ガイド・岡徹さんのご案内のもと散策した。
岡さんからまず、宮古島の成り立ちについてお話をうかがう。

宮古島はもともと海の中のサンゴ礁が隆起してできた島で、メインの地質は石灰岩。その上に樹が生え、成長に伴い隙間に根っこが入っていき岩を風化させ、徐々に土ができていったそうだ。


ということは、宮古島=根っこでできた島!

一気に興奮が高まる。

実際に森の中のところどころで、土の間から石灰岩が顔を覗かせていた。



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その上に、パパイヤやオオタニワタリ、クワズイモといった、亜熱帯ならではの植物がワッサワッサと自生している。
全体的に葉っぱのサイズが大きく、色も濃くツヤツヤだ。
南にやってきたことをあらためてかみしめながら森を歩いていたら、巨大な水かきのような物体に目を奪われた。



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うおぉー!宮古島でもうひとつの目当ての根っこだった「板根」ってやつだ!

板根とは、表土が浅い亜熱帯の森で、木の体を支えるために板状になった根っこ。
横幅はゆうに5~6メートルはあるだろうか。横から見ると、でっかいタコが足を思いっきり広げているようなビジュアルだ。



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地面をガシッとつかむ力強さがたまらない。
触ってみると、意外にもすべすべしていてカチコチだった。

板根のほど近くには、おばけのような樹があった。



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この樹はガジュマルで、柵みたいなものは、なんと根っこ!
ガジュマルは、湿度が高い亜熱帯で空気中の水分を取るために「気根」と呼ばれる根っこをどんどん垂らす。



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この気根、最初は細くてもじゃもじゃしたヒゲみたいな状態だが、やがて地面に着くと、地中からも養水分を吸収しどんどん太くなる。
その結果、ろうそくみたいに垂れ下がった状態になっているのだった。

ダイナミックな生態と、今にも「ガサガサ」という音を立てて動きしそうなビジュアル。
観葉植物として植木鉢に植えられた状態ではよく目にしていたが、やはり自然に生えた状態だと迫力満点だ。

ガジュマルは、鳥の糞で種が運ばれ他の樹の上で発芽すると、絡みつかれたほうの樹は、どんどん太くなる気根に締め付けられ、やがて枯れてしまうことがある。この特徴から「絞め殺しの樹」とも言われている。



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本やネットを通して知識としては理解していたものの、実際にでっかいガジュマルがオバケのような気根で他の樹を絞め殺す様子を目の当たりにすると、心なしか、背筋がひんやりとしてくる。
こんな根っこにギリギリと締め付けられたら、そりゃもう、ひとたまりもないに違いない。

ガジュマルの近くでは、トウヅルモドキというつる植物が、樹の上まで這い上り樹冠を覆い尽くしていた。



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他の樹を使って少しでも高い場所によじ登り、光を取ろうとするつる植物。
つるに絡みつくされた樹は、やがて光合成ができなくなって枯れることもあるそう。
一見静かに見える森でも、その内部ではさまざまな形で熾烈な生存競争が繰り広げられているのだ。

しばらく歩いていくと洞窟があった。



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宮古島の土台となっている石灰岩に水が浸食し穴が開いてできたそうで、宮古島にはこういった鍾乳洞が多く存在するらしい。
洞窟の中に入ると、壁のあちこちに根っこが這っていた。



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こうやって根っこが少しずつ岩を風化させていき、土ができていく。
まさに根っこの島=宮古島形成の瞬間を目の当たりにしたのだった。



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根っこの森に突入


森をたっぷり堪能したあとは、伊良部島という離島へ。
地元のカニ漁師の「蟹蔵」さんのガイドのもと、島のマングローブ林へ分け入った。
マングローブの足下にはいろんな種類の蟹が生息しているらしい。蟹蔵さんはマングローブに籠をしかけ、そこにかかったカニを獲る漁をされているので、マングローブの生態にもとても詳しい。



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マングローブはドロドロした土の上に生えている。
足首まで水に浸かりながら歩いて行き、いざ根っこの森に突入。地面からはムワンと、湿気とともに独特の匂いが立ち上がる。

昨日は遠くから見て、恋い焦がれるだけだったマングローブの根っこが、超至近距離で両脇に迫ってくる。



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うわぁ・・・近くで見ると、根っこのこんがらがりっぷりは相当なもの

虫になって金たわしや天然パーマの髪の毛の中に飛び込んだら、こんな光景が広がっているんだろうか。鞄の中で、イヤホンのコードが壮絶にこんがらがってしまった時のような、途方にくれる気持ちになる。

よくよく観察すると、ひとくちにマングローブといっても樹の種類は何種類かあり、それによって根っこの形も異なる。



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こんな風なタコ足状だけでなく



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板状のもの



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ちょこっと顔を出しているの



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棒みたいなのとか、様々だ。
いずれも不安定な地面で樹を支えたり、地上に出た部分で呼吸をする役目がある。

このように、マングローブ林はいろんなタイプの根っこがひしめく一大根っこパラダイスなのだった。
ああもう、目と頭と感情が忙しすぎる。



ガジュマルに絞め殺されそうな宮古島


半ば思いつきで飛んだ宮古島。想像以上に根っこが地上で暴れまわっている根っこの島だった。
とにかくいたるところで、バケモノ級の根っこがはみだしまくってるので、なかなか心が休まる時がない。

森とマングローブ林のみならず、街中の根っこだって見逃せない。
最後に駆け足でお届けしよう。



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至るところにわしゃわしゃ生えていたアダン。
むき出しになった根っこは、いかにも戦闘力が高そうな見た目だ。



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繁華街で驚いたのはゴムノキ。とにかくサイズがどでかい。
とろけるチーズみたいに融合した根っこのすぐ上に、オオタニワタリがしがみついていた。



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たまげたのがシェフレラ。前回の記事で、シェフレラは「根ッチラ」しがちと書いた(※「根ッチラ」=不意に地上にはみだしたパンチラ感のある根っこの意)。

ここ宮古島ともなると、同じシェフレラの根ッチラでも爆発力が違う。鉢なんか無視。
パンチラどころか、みずからパンツを見せつけている積極派だ。



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そして、森の中で猛威を振るっていたガジュマルは、街中でもその勢いはとどまるところを知らなかった。


電柱…

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街路樹…

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はたまた建物に到るまで…

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あらゆる相手にロックオンしていた。
宮古島の街がガジュマルに絞め殺されないことを願うばかりだ。



気根が洞窟みたいになったガジュマルも発見した。

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地中から這い上がってきた巨大ゾンビのようなおどろおどろしさ。
中に入ると、気分はまさに絞め殺される植物。でも、いつまでもここにいたいと思ってしまうから不思議なものだ。
根っこマニアとしては、ここでじわじわと絞め殺されたら本望かもしれない。



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根っこマニアの心を片時も鎮めてくれない、根っこの島・宮古島。
ガジュマルに絞め殺されてしまわないうちに、またくるから……根!


<リンク>
宮古島ひとときさんぽ



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