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その道30年。片手袋研究家、石井公二さんによる連載「この世界の片手袋に」の第10回。
築地につぐ片手袋第2の聖地、新木場。夏でも片手袋に出会える最高のレジャースポットだ!


 



【筆者】

片手袋研究家 石井公二 片手袋大全twitter

 著者近影小学校1年生から路上に落ちてる手袋に注目して30年。


大いなる誤解


「夏は暇ですね」

片手袋研究をやっていると、たまにそう言われる。
だがちょっと待って欲しい。何も手袋を使用するのは冬だけではあるまい。軍手にゴム手袋、あらゆる種類の手袋は潜在的に片手袋になる可能性を秘めている。
春から秋にかけても、気を抜いて良い訳ではないのである。

古いデータで申し訳ないが、この表を見て欲しい。



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2014年に出会った片手袋、全450枚の月別データである。
確かに12月から4月頃にかけては枚数、種類共に沢山の片手袋と出会っている。
しかしそれ以外の月も放置型を中心に、決して馬鹿に出来ない枚数の片手袋と出会っているのがお分かり頂けるだろう。

だが、目の照準が自動的に片手袋に合うようになっていない皆さんには、この時期の片手袋は見え辛いかもしれない。冬場は町のいたる所で発生しているから誰でも見つける事が出来るが、それ以外の季節は「ある所にまとまってある」という感じなのだ。
その“ある所”が分からなければ、確かに片手袋との出会いは激減してしまう。


「じゃあ我々素人は諦めるしかないんですか?」

いやいや、そんな事はない。落ち込まないで。行けばかなりの確率で片手袋と出会えるような場所が幾つかあるので、安心して欲しい。
その一つは当連載二回目で触れた、“片手袋の聖地”築地市場。


ちなみに、過去に大阪の市場も調査してみたらやはり片手袋と幾つか出会えたので、全国的に市場は季節に関係なく片手袋と出会える場所と考えて良いだろう。
しかし市場は観光地化が進んでいるとはいえ、平日の午前中にしか開場していなかったりして誰でも気軽に行ける場所とは言い難い。


「じゃあ、やっぱり我々は冬を待つしかないじゃないですか!」

いやいや、そんな事はない。泣かないで。誰でも、いつでも気軽に行ける“片手袋第二の聖地”。
今回はそれをご紹介しよう。


第二の聖地


千葉と神奈川を結ぶ湾岸道路(国道357号)。
その役割を、川崎市のHPから引用してみる。

国道357号東京湾岸道路は、臨海部に面する各都市を結び、空港及び港湾等の国際的業務機能をはじめとする物流拠点・オフィス・レジャー施設へのアクセス向上など、人流・物流の効率化を目的とした道路です。

私は幼い頃から釣り好き&江東区で育ったので、湾岸道路の中でも新木場や夢の島、豊洲といったエリアを頻繁に訪れていた。
湾岸道路沿いの他の地域と同じく、新木場周辺には物流会社の倉庫が沢山存在しているのだが、倉庫というのは手袋の使用頻度がとても高い場所だ。
また湾岸道路は沢山の大型車が日々忙しく行き来しているが、物流や土木関係のトラックは荷台にむき出しの軍手を積んでいる事が多い。


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▲大型のトラックや特殊車両が沢山走っている

築地を片手袋の聖地にしている理由として「①場所における手袋の使用率が高い(片手袋の発生率が上がる) ②忙しい場所である(落としても気づかない可能性が上がる)」という条件を挙げたが、新木場周辺は築地とはまた違った理由でその二つの条件を満たしているのだ。

2005年に片手袋研究を始めてからは、釣りをしていてもポイントからポイントに移動している最中、道路に沢山の片手袋が落ちていて竿を振る暇などありゃあしない。
それ位、新木場周辺には沢山の片手袋が落ちている。


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そう、片手袋第二の聖地とは「東京都江東区新木場周辺」なのである。

私はこれまでの片手袋研究において「出会った片手袋には触れない」など、様々なルールを自分に課してきた。その中の一つに「片手袋をわざわざ探しに行かない」というのもあったのだが、それは偶然の出会いを大切にしたい、という思いからであった。
しかし近年、取材などで片手袋探しのロケを頼まれる事も増えて来たし、幾つか探索してみたい片手袋ポイントもあるので、徹底的に研究を突き詰めてみるという点においてはこのルールが足枷になる事も多かった。

そこで今回、さらなる片手袋研究の飛躍と、冬以外に片手袋との出会いを渇望する皆さんの心情を鑑みて、このルールは破棄する事にした。
具体的には、新木場周辺を実際に探索してきたのである(これ、さらっと書いてますが、片手袋研究において物凄く重要なターニングポイントですからね。イチローが振り子打法をやめて種田のバッティングフォームに変えた、くらいのインパクトありますからね)。


探索開始


探索を行ったのは6/25(月)。
正午少し前に有楽町線新木場駅に到着し外に出ると、天気は快晴。というより物凄く暑い。なんと既に30℃を超えている。暑さに弱い私としてはかなり不安だったが、「夢の島」という表示を見て早くも胸が高鳴る。
そう、これから片手袋的には夢のようなエリアを歩くのだ。


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事実、探索を始める前に飲み物を買いにコンビニに寄っただけで、既に実用型と放置型の片手袋と遭遇。


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さすが第二の聖地である。夢、来てる。グイグイ来てる。
さて「新木場周辺」ではあまりにも漠然としているので、まずは探索の範囲を限定しなければならない。炎天下で歩くことを考えれば、一時間くらいが限界だろう。そこで今回は、

「新木場駅目の前の夢の島交差点から国道357号を豊洲方面に向かって歩き、辰巳交差点で折り返して再び新木場駅を目指す」

という全長2kmほどのコースを設定した。


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私の小さい頃からずっと交差点角にある吉野家を通り過ぎ、探索開始。



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いつもの事だが、この日も沢山の大型トラックがどんどん横を通り過ぎていく。
見るべきポイントとしては、まず何といっても路肩。


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トラックから落ちた軍手などが路肩にへばりついている光景は、新木場ならではのインスタ映えスポット。


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歩道側も注意しなければならない。
この辺りは空き缶やコンビニ弁当の空き容器が散乱しているのだが、その中に潜んでいる片手袋を見逃さないようにして頂きたい。


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▲なんと甘美な光景!

また歩道沿いに点在するパーキング周辺も要注意。
こちらも駐車していた工事車両なんかからポロリと片手袋が落ちているのだ。

歩き始めて数分。
早くも一枚目の片手袋と遭遇。しかも軽作業類にしては珍しい介入型だ。


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しかし、瞬時に脳内片手袋データベースが反応する。

「似たようなタイプに出会った事あるな」

帰ってから調べてみると、以前築地で出会ったものだった。


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やはり聖地に出現する片手袋は似通ってくるのだろうか?
それにしてもこの辺り、車道は物凄い交通量だが歩道は昼間でも殆ど誰も歩いていない。


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一体誰が、こんな汚れた軍手を拾い上げたのだろう?
本当に片手袋は謎だらけだ。

そこから僅か数十メートル、砂町運河に架かる橋の手前で二枚目。


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この日の前の週は雨降りが多かったのだが、そういう時は排水溝周辺で片手袋と出会う事が多い。
やはり水に流されて辿り着くのだろう。

釣り人の性として、水を見るとついボーっと眺めてしまう。


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思えば水の流れなどによって魚の集まるポイントが変わってくる、という点において、釣りと片手袋探索は似ているのかもしれない。

砂町運河を渡りきると、少々厳しい展開が待ち受けている。


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このように植栽が歩道と車道を隔ててしまうので、路肩の片手袋を見つけられなくなってしまうのだ。
その為、ここからは歩道側を入念にチェックしていく。
するとフェンスの向こう側にある駐車場に三枚目を発見。


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ここまでスタートから僅か10分。やはり密度が半端ない。



■まさかの展開■

…と思ったのだが、ここから厳しい局面を迎える。
なんと折り返し地点である辰巳交差点まで、全く出会いがなくなってしまったのだ。

辰巳交差点到着時点で12時35分。


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開始から30分以上が経過し、暑さのせいで意識が朦朧としてきた。
横断歩道を渡っている最中にようやく出会ったと思っても、両手袋。



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▲まあ私の中では両手袋も片手袋である、という理論武装が出来ているのだが

しかも経験的に、豊洲方面を目指していた先程までより、再び新木場駅を目指すこれからは正直あまり期待出来ない。
その理由は、こちら側は植栽で道路と歩道が分断されている区間がずっと続くので車道側が確認出来ないのと、(一般的には良い事なのだが)こちら側の歩道は辰巳の森公園に隣接している為か、結構清掃が行き届いていて片手袋を含めゴミが散乱しているような状況ではないからだ。


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ここからの1km、気が重い。
そして予感は見事的中。やはり全然片手袋は現れない。気付けば再び砂町運河まで来てしまっていた。


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この頃には尋常じゃない汗が流れてきていたが、タオルを忘れたのでティッシュで拭っていた為、顔中に白いカスが付きまくっている。
炎天下で視点が定まらずキョロキョロしながら、顔中に白いカスを付けて歩いている男。怪し過ぎる。
しかしそんな事を気にしていられないくらい、既にフラフラの状態。

(あと300m位しかないけど、それが物凄く遠く感じる…)

橋の上で立ち止まり、再びボーっと水面を眺める。
既に三枚も見つけているので充分と言えば充分なのだが、聖地と呼ぶには少々寂しい結果だ。


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▲こちら側は橋の上からあけぼの水門が間近に見られるのだが、真上は京葉線、遠くにスカイツリー、と中々見応えのある景色である



■幸運の天使■

と、その時。
車道を一台の車が走り抜けていくのが目に入った。

LOHACOの配達車である!


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▲のちに信号待ちをしていたので撮影できた

「うお~!何たる偶然!」

一気にテンションが上がり、私は再びやる気を取り戻した。
…あ、何の事か分からない方がいるかもしれないので一応説明をしておくと、LOHACOの配達車には片手袋が描き込まれているので片手袋の世界(私一人の世界)では幸運の象徴なのだ。


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頬っぺたを叩いて気合を入れ直し、私は再び歩き出した。
するとどうだろう?
やはり流れというのはあるもので、すぐに四枚目の片手袋と出会ったのだ。


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▲ここから植栽がなくなって路肩をチェックできるようになっていたのも大きいかもしれない

そして夢の島交差点手前で五枚目。


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▲やはり排水溝回り

ゴールである新木場駅側に横断歩道を渡っている最中、立て続けに六枚目と七枚目に遭遇したのだ。


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最後の七枚目を撮ったのが13時9分。
一時間ジャストの探索で7枚の片手袋。最初のコンビニ周辺のも入れれば9枚。
やはりこの辺り一帯は聖地と呼ぶのにふさわしかった!




■片手袋はどさん子である■

大満足の結果が得られた私は、吉野家と同じく私が幼い頃からずっとある駅前のどさん子ラーメンで腹を満たしたのである。


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▲半チャーハンまで付けちゃったよね

幼い頃、あらゆる町のあらゆる場所にどさん子ラーメンはあった気がする。
今では中々見なくなってしまったけれど、新木場には変わらず存在し続けてくれている。
思えば片手袋も、私が研究を始める前、いや、生まれる前からずっと新木場周辺に沢山落ち続けてきたのであろう。

さあ、皆さん。これから海に山に沢山のレジャーがあなたを待ち受けています。
既に梅雨明けが発表されているし、今年の夏は長くなりそう。お子様の自由研究の課題に、付き合いたてのあの娘とのお散歩に、新木場に行かない理由はもうないYO・NE!
冬以外も容易に片手袋と出会える新鮮な驚きを、楽しんでちょうだい!チャオ!


今回のまとめ


どさん子のようなオールドスクールのラーメンには、何故かバターをトッピングしたくなる。



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【目次】
●はじめに
●片手袋分類図
●第一段階「目的で分ける」
・軽作業類/重作業類/ゴム手袋類/ディスポーザブル類/ファッション・防寒類/お子様類
●第二段階「過程で分ける」
・放置型片手袋/介入型片手袋/実用型片手袋/
●第三段階「状況・場所で分ける」放置型編
・道路系/横断歩道系/電柱系/バス停系/雪どけこんにちは系/田んぼ系/海辺系/深海デブリ系/籠系/駐車場系
●第三段階「状況・場所で分ける」介入型編
・ガードレール系/三角コーン系/電柱系/バス停系/棒系/掲示板系/フェンス系/植込&花壇系/室外機系/消火器系/ゴミ捨て場系/落とし物スペース系
●片手袋の形状一覧
●おわりに





【筆者】

片手袋研究家 石井公二 片手袋大全twitter

 著者近影小学校1年生から路上に落ちてる手袋に注目して30年。