
みはしのあんみつをこよなく愛するライターかとみさん。
今回はたくみなSNS活用で、初みはしの2人を誘惑します。
(著者:かとみ)
みはしに人を連れ込みたい。私が日頃から思っていることだ。
そして今夜、念願叶ってみはしに人を連れ込めることになった。しかも2人も同時に。
最高なことに2人ともみはし未体験のウブなお嬢さんと来ている。
右を見ても初みはし、左を見ても初みはし。
ウブとウブがぶつかり合い、私は初みはしの波に揉みくちゃにされながら、フレッシュな気持ちであんみつを食べることになるだろう。
ああ、考えただけでたまらない。

今夜、初みはしを迎えるのは、サボテンズというユニットを組むお嬢さん方。
東京別視点ガイドでも度々登場する路上観察系マニアの2人だ。やはりマニアというだけあって、物事に対する分析が素晴らしく、そして情熱的である。
そんな人たちがみはしのあんみつにどんな感想を抱くのか、一度じっくり聞いてみたいと思い、みはしに連れ込む運びとなった。
心理トラップを仕掛ける
来たる連れ込みデーに向けて着々と準備を進めてきた。
何せ大事な大事な初みはし。期待を極限まで高めてもらう必要がある。

約束を取り付けてからは、SNSにあんみつの写真をいつもより執拗に投稿した。
2人が見ているからだ。私はインターネット越しに様々なあんみつを2人に見せつけた。

投稿するとさっそく2人から「いいね!」された形跡が。
ああ、見られてる。一体どんな顔で見ているのか。ゾクゾクする。

どちらも同じ日のあんみつだが、構図違いを見せることで1杯で二度その気にさせることが出来るだろう。
色々な角度から器の中の模様を鑑賞してみてほしい。そびえ立つソフトクリームのシルエットを確認してほしい。とにかく見て、観察して、興奮してほしい。

これらは全て同じほうじ茶あんみつ。幅広いアレンジを見せつけてみた。
何と言っても初みはしの醍醐味といえば、戸惑う様子にある。
みはしの豊富なトッピングを意識に刷り込まれた2人は、メニューを眺めながら迷い戸惑い頭を抱えることだろう。

私のあんみつ露出を見て、サボテンズはどんな気持ちになったのだろうか。
美味しそうなあんみつに頬を赤らめつつ「こんな時間にこんなものを見せて」とか思いながらハァハァしてたんじゃないか。
さぁ準備は十分に整った。
いざ行こう、みはしへ!
緊張の待ち合わせ
19時30分、上野駅中央改札。
きっかり時間通りに全員集まった。

「今日はよろしくお願いします!」

「ようやくこの日がやって来ました!」

「はい、私も楽しみに来ました!
何ていうか…良い初めてにしましょうね!」
どこかぎこちない空気が漂う。
サボテンズも私も緊張しているのだ。
上野駅からぞろぞろと歩いてお店へ向かう。

「ああ、どうしよう。かとみさんのインスタグラム見てたらもう美味しそうで……
よっちゃん(藤田さん)もう決まってる?!」

「ほうじ茶あんみつ絶対いいよね! でもソフトクリームもいっておきたい。フルーツも食べたいし、白玉も捨てがたいな。全部乗せたいけど全部はさすがにだよね? いや、やっぱり季節のほうじ茶をいっておくべきかな~。もうやだ、どうしたらいいの」
道中、サボテンズがパニックに陥っていた。
私のあんみつ露出が効いているようだ。
メニューの前で頭を抱えるどころか、自ら宙に描いた妄想のあんみつで苦しんでいる。最高だ。

(この苦悩ずっと見ていたい……)
苦悩と混乱のオーダー

本日の舞台はみはし本店。
日中は行列しているが、大体18時をすぎた辺りから空き始めるので、夜の来店が狙い目だ。
素早く着席すると、さっそくサボテンズがメニューの前で悩ましい声を上げている。
2人から次々と質問が飛び出した。

「あの、これって小豆は入ってるんですか?」

「はい、あんみつにはあんこが入ってます。こしあんと粒あんが選べますよ」

「これに求肥は……求肥は入るんですか?!」

「本店だと求肥は追加できないみたいです」

「そう……なんですね……」

「 私の頼むやつ求肥入ってるっぽいから1枚あげようか?!」

「あ、増量は出来ないんですけど、あんみつ・みつ豆類は求肥が2枚ずつ入ってるから大丈夫ですよ!」

(この2人、パニックに陥りながらもお互いを思いやっている……!)

緊張と混乱、そして美しき友情を確認したところで、思い思いのあんみつを注文する。
思いとトッピングが盛り込まれすぎて、注文を取るのが大変そうだった。
あんみつが来るまでサボテンズに質問してみることに。

「お2人とも普段から甘い物は食べるんですか?」

「私は酒飲みなので、改めて甘い物ってあんまり食べないかも」

(上物のウブきた……!)

「私は甘い物めちゃめちゃ好きです。
そういえば前に、うどん屋さんであんみつを食べてみたんですが」

「おお、あんみつを!」

「そのあんみつは、あれが硬くて。あの……ぎゅうす? 」

「ぎゅうす?!」

「えっ、ぎゅうす?!」

「あ! 求肥(ぎゅうひ)?!」

(緊張してもう言語がめちゃくちゃだ……!)
サボテンズのウブ具合に頬の点滅が止まらない。
この2人があんみつを食べたらどんな感想を言うのだろうか。
どう? 今どう思ってるの? っていっぱい聞きたい。
あんみつと対面した2人の反応は
そうこうしている内にあんみつが運ばれてきた。
いよいよだ。

なんて壮観な眺めだろうか。
誰からともなく「ヒェ~」という声が漏れた。
人は圧巻されすぎると黄色い声などではなく、「ヒェ~」と隙間風のような音を出すらしい。

私が注文したのは、杏クリームあんみつのほうじ茶アイストッピング。
人を連れ込んでる手前、つい張り切ったトッピングになってしまった。

遠目でもお分かりいただけるだろうか。
私の張り切ったあんみつ以上に、村田さんのあんみつからは色々なものがはみ出しているじゃないか。

藤田さんの器からもごっそりはみ出しまくっている。
サボテンズの積極的なトッピングに、私は興奮すると同時に感動で胸がいっぱいになった。

何を隠そう私自身も、あんみつをごっそりはみ出させてきたからだ。
嬉しい。サボテンズも欲望のままにごっそりはみ出してくれて嬉しいよ。

藤田さん(左):フルーツクリームあんみつ、ほうじ茶アイスと杏トッピング
村田さん(右):フルーツあんみつ、ほうじ茶アイスと白玉トッピング
ここから「おいしい!」の応酬が始まる。

「どうですか?」

「おいしい~! ほうじ茶アイスがちょうど良い硬さで。あんこの後にほうじ茶アイスを食べると甘さがキュッと締まりますね」

「そうなんですよ。ほうじ茶アイスっておいしいんですよ!」

「ああ、下からぷりっとしたものが! 寒天? おいしい~」

「歯ごたえがあっておいしいですよね!」

「んん~!」

「あんこがジューシーですね! とろとろ」

「そうでしょう、おいしいでしょう!」

「求肥はどうですか?」

「ん~~~何だこれは、柔らかい!」

「おいしいね!」

「うんうん、おいしいですね!」

「ん~~おいしい」

「やばい、どんどんアイスが溶けてきちゃう!」

「んん~~」

「たくさん盛りましたもんね。でも溶けて出来た泉がまたおいしいから…!」

「ん~~~~」
後半から村田さんが牛になった。
おいしくて唸るあまり、牛のように鳴くことしか出来なくなったようだ。
注文までのバタバタから一転、後半は目の前のあんみつをひたすら口に運んだ。
そこにお茶会のような優雅な空間はない。
溶けだすアイスを前に夢中でスプーンを動かすのみ。
それはトッピングをたくさんした者の宿命である。

「ふぅ……」

「ふぅ……」

「ふ~……」

幸福な沈黙に包まれながら熱々の緑茶をすすり終えると、私たちはお店を後にした。
初みはしを終えて
想像以上の初みはしを見せていただいた。
サボテンズはウブに見えて初手からとても大胆だった。
私は確信している。こういうタイプが一番ハマりやすいのだ。
その証拠に……
あかん、みはしのあんみつ食べたい
— fujitayoshimi (@f_yoshimix) 2018年7月30日
みはしのあんみつ食べたい… pic.twitter.com/wQkSleIJ8P
— 路上園芸学会 (@botaworks) 2018年7月28日
ほうらね! もう欲しくなってるね!
こうして人はみはしのあんみつに翻弄されハマっていくのだ。