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その道30年。片手袋研究家、石井公二さんによる連載「この世界の片手袋に」の第13回。
今回は10月10日から24日まで開催された『マニアフェスタ × 東急ハンズ』での気づきをまとめております!

(著者:片手袋研究家・石井公二




【筆者】

片手袋研究家 石井公二 片手袋大全twitter

 著者近影小学校1年生から路上に落ちてる手袋に注目して30年。


念願の初参加


29ジャンルのマニアが集い、冊子やグッズを販売するイベント「マニアフェスタ×東急ハンズ」が10月10日から24日まで開催され、私も片手袋マニアとして参加させて頂いた。
終了から日は経ってしまったが、せっかくなので少し振り返っておきたい。
 
ご存知の方もいらっしゃると思うが、第一回目のマニアフェスタは今年の6月30日に開催されており、会場となった清澄白河のリトルトーキョーには700人もの人が押し寄せた。
私も出展者としてお誘い頂いたのだが仕事で伺えず、その日の為に制作した初めての冊子『暮らしお役立ち 片手袋分類図鑑』を別視点さんのブースに託す、という形での参加となった。
 
当日、私は仕事も手につかず、ひたすらマニアフェスタ関連のツイートをリアルタイムで追っていた。
出展者とお客さん、双方の熱気がスマホ越しにも伝わってきて、私はその場にいられない悔しさでグギギギと歯を3mmほどすり減らした。
 

 
イベント終了後、大成功の興奮に包まれた出展者の皆さんが笑顔で写っている集合写真を見た時には、「チキショー!」とスマホをぶん投げた。
「俺はどうしてこの場にいられないんだよ!」と妻に怒りをぶつけたところ、「仕事だからでしょ」と物凄く冷静な答えが返ってきて、同じ涙がキラリとなった。
あの時ほど「俺が天使だったなら」と思った事はない。
 

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しかし今回の「マニアフェスタ×東急ハンズ」は15日間も開催される。
これなら休みの日や仕事が終わってから店番に立てる日もあるので参加出来る!
『片手袋分類図鑑』に加え、新作の冊子『さよなら、築地の片手袋たち』も緊急制作する、という気合の入れ方で初日を迎えた。


お客さん側の熱気


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マニアフェスタは開始直後(もしかしたら直前からだったかもしれない)からネットを中心として大きな話題になり、おかげさまで初日から本当に沢山の方が片手袋ブースにも訪れてくれた。
店番としてブースの横に立っていると、人生に1mmも役に立つことがないと思われる私の片手袋話を熱心に聞いて下さる方が少なくなかった。

中には東京旅行中(海外の方も!)にたまたまマニアフェスタの前を通りかかり、冊子を購入して下さった方もいた。
旅先で見ず知らずのイベントで売ってる訳の分からない冊子を見て、「面白そう!」と買ってくれる好奇心旺盛さ。
私自身、新しく出会った文化にあそこまで気軽に飛び込める勇気がない人間なので、本当に見習いたいと思った。
 


片手袋ブースは置いておくとして、他のマニアの方々のブースも常に賑わっていた。
お客さんは皆、「もしかしてシンガポールのあのビルの上にあるコッペパンみたいなプールで日常的に遊んでいる富裕層の方々ですか?」というくらいポンポン商品を籠に放り込んでいく。
開幕から僅か数日で売切れになってしまった商品が続出したのだから驚きだ。
 
勿論「商品が売れる」というのはあくまでひとつの目安であって、それ以外にも様々なマニアの話を熱心に聞き入ったり、見本の冊子を真剣に読み込んだりしているお客さんの姿が頻繁に見られた。
 
つまり今回のマニアフェスタ、まずお客さん側の「楽しもう!」「マニアの活動を知ろう!」という熱気が凄かったのだ。
これには本当に助けられたと思う。
 
片手袋ブースには「触ると片手袋との遭遇率が上がる片手袋吹きガラス」と「押すと片手袋との遭遇率が上がる片手袋スタンプ」を設置しておいたのだが、それは冗談でもなんでもなくきちんとしたロジックがある。

 
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私自身、例えばゴムホースマニアの中島さんの存在を知って以来、今まで全く気にしていなかった町中のゴムホースが視界に入ってくるようになった。
それと同じように、片手袋吹きガラスに触れる、片手袋スタンプを押す、という能動的な行為を通過すると、今まで見えていなかった片手袋がきっと見えるようになる筈なのだ。
事実、マニアフェスタ終了後、幾つか「早速見つけることが出来ました」というご報告も届いている。
 
お客様にとって、マニアフェスタの楽しみはここにもあったと思う。
マニアの存在を、活動を、知る。すると、今まで当たり前に思えていた町が全く違うものに見えてくる不思議。マニアに触れるという事はマニアの視点をインストールする、という事なのだ。
マニアフェスタを見終え、東急ハンズから町に出る。そこからが本番!と言っても過言ではなかったと思う。
 

そして、マニア


そして勿論、マニア側の熱気である。
 
確か初日に別視点の松澤さんが「見た事のない商品しかない空間」というような事をつぶやいていらっしゃったが、本当にその通りで、一般的とは言えないかもしれない分野に熱中しているマニアの方達が、それぞれの形でその魅力を商品として結実させているのだから、全ての商品が独特の輝きを放っていた。
 
私は今まで、片手袋の魅力を伝えようと沢山の言葉を積み重ねてきた。
しかし、他のマニアの方々のブースを見て、「魅力を伝える」やり方は、言語的コミュニケーション以外にも沢山ある事に気付けたのが大きな収穫だった。
 


「銭湯の魅力って、こういう所にあるんですよ!」と熱く語るのも良い。
しかし、塩谷さんの銭湯図解や銭湯錠キーホルダーを見ると、感覚的に「あ、面白い!」と一発で理解出来る。
で、それはもう銭湯の魅力の第一歩が相手に伝わっている、という事なのだと思う。
ここは今後、片手袋研究にも取り入れていくべき課題だろう。




また、地獄研究家の地獄さんや歩行者天国研究家の内海さんからは、アカデミックな場で研究を続けている方の凄味のようなものを感じた。
あらゆるものを投げうって取り組んでいるつもりの片手袋研究だったが、地獄さんや内海さんの調査能力に比べて自分は恥ずかしい事をしていないと言えるだろうか?
 

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地理人さんの空想の都市の住民の空想の落とし物。
落ちている片手袋から落とした人の背景を探っている私としてはとても共感できると同時に、「しかしそれは存在していない人の落とし物なのである」という実在と不在の境界を揺さぶってくるスリリングさ。

後日、実際に実在の人物が落としたカードを見て物足りなさを感じてしまったのだから、もう何が何やら訳が分からない。
実はこれに近い事を片手袋研究でも数年前から取り組んでいるので、とても参考になった。
 
そう。やはりジャンルは違えど、皆さん自分がやっている事に全く手加減をしていない人達である。
お話をさせて頂くと不思議と同じような問題意識を持っていたりして、片手袋研究にも大きなフィードバックがあった。
 
「マニアはマニアに生まれるのではない。マニアになるのだ」と言ったのはボーボワールだったと思うが、皆さんがマニアになっていく過程で身に付けた視線や技術は、出展者同士にも良いケミストリーを起こしたのではないだろうか?
 

あなただって……


今回、一つだけ気になった事がある。お客様と話をさせて頂いていると、「私には皆さんみたいに熱中できることが一つもないんです」という悩みを吐露される方が少なからずいたのだ。
退職後、様々なカルチャースクールなどに通ってみるも趣味が見つからず苦労する高齢者の話は聞いた事があるが、若い人たちにとっても熱中できる対象を見つける事は簡単ではないのかもしれない。
 
マニアと呼ばれるような活動をしているとつい、「寝る間も惜しんで○○をしています」「○○枚の写真を撮りました」「○○箇所制覇しました」「○○年も続けています」と、熱量の高さ、活動量の甚大さを語ってしまう。
それがマニアの必須条件だと思っている方も多いだろうし、それを“熱中”と捉え自分と比べてしまうのかもしれない。
 
しかし、マニアというのは視線の面白さ、対象との接し方の面白さにも宿るものだと思う。
「熱中できるものがない」と悩むあなたがつまらないと思っている自分の日常。そこにも絶対にマニアは発生し得る。
 
毎朝欠かさず食べている納豆。でも絶対に同じ手順で食べなければ気が済まない。毎日入るお風呂。気が付けば小さい頃から必ず同じ順番で身体を洗ってる。
そういうつまらない事象でも見方や接し方次第で、マニア性が立ち上ってくる筈なのだ。
 
とんでもない熱量、圧倒的な知識量、活動を一発で理解させるデザイン能力、小さな事であってもハッとさせる視線の斬新さ。
私はもっともっと世界の面白い見方を知りたい。そして私の片手袋研究の事も知ってもらいたい。
 
次回のマニアフェスタは来年の2月に決定している。
あなたは世界をどんな風に見ていますか?それを教えて欲しい。もっと世界を色んな視点で見てみたいから。




【筆者】

片手袋研究家 石井公二 片手袋大全twitter

 著者近影小学校1年生から路上に落ちてる手袋に注目して30年。