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成田山新勝寺で
・固形物はもちろんのこと塩もNG
・水道水以外飲めない
という3泊4日のストイックな断食修行をしてきた体験記です。





【著者】

河澄かるめ
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フリーのイラストレーター。渋いものとカエルが好きです。




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千葉県成田市にある成田山新勝寺。
このお寺では断食修行を体験することができる。

固形物はもちろんのこと塩もNG。水道水以外飲めないというかなりストイックなもの。
断食道場での修行の目的は、お不動さまの御加護のもと、不動の信念と心身の鍛練を体得すること。
つまりメンタル強化合宿だ。


酵素ドリンクのみで3日間過ごすファスティングは数回行ったことがあるが、水のみの断食は今まで経験がなかった。人間は水だけで生き延びられるのか、身体は一体どうなるのか興味があり、行ってみることにした。
修行をしてたるみきった精神を鍛えなおしたい。
今後降りかかるであろう逆境に打ち勝てる屈強な精神力を身に付けたい・・・。



などとかっこよさげなことを言いたくなるが



ぶっちゃけ



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理由がすでに煩悩にまみれている。



なぜ新勝寺での断食を選んだか。
全国に断食道場は数多くあるが、通常2泊3日で3万以上するところが多い。
なぜ食べないで過ごすだけでこんなに高いのかと不思議に思っていた。



しかし!


ここ新勝寺の断食修行は圧倒的に安い!




2泊3日で5000円。それ以降は1泊ごとにプラス1000円という破格の値段。
断食初日、指定された病院での健康診断が必須となるが、診察費を含めても今回の出費は1万円以内で済んだ。
シャバで普通に暮らすより安いかもしれない。

予約の方法は電話のみ。
さまざまなブログで、「電話先の人の声が厳しめ」と書いてあったのでガクガク震えながら電話をかけた。



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しかし電話先の相手は優しい口調の男性。


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電話したのは3月4日なのにもういっぱい予約が入っている!断食修行の人気に驚く。
女性は1日最大6人まで。あまり早いと予約はできないらしい。
持っていくものとダメなものを教えてくれた。



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最後に名前、住所や連絡先を伝え電話を切り、ほっと胸をなでおろした。

4月はまだ冷え込むということでカイロも持っていったが、これは後々かなり役に立った。
またコピック約80本とスケッチブックも持参。大量すぎた。


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スーツケースがパンパンですごく重い。
こんなに本数はいらなかったし、帰りの登り道で地獄をみたことは言うまでも無い。



準備期間開始


いきなり断食に入るのではなく、まず修行の前に準備食というものをとる。
突然食を断つと頭痛、めまいなどが起きやすくなるため徐々に食事を減らしていく。

準備食期間中は胃に負担をかけないものを食べる。
「まごわやさしい」学生時代の家庭科の授業で習ったことをぼんやり思い出した。


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準備食期間は断食期間と同じ日数をとるのが理想。

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食事から取れる水分量が減るため、1日2リットル以上の水を飲む。

この準備期間が地味に辛い…。
ケーキ食べたい…カレー食べたい…肉…米…パン…パァン…パアァン!!!
この時点ですでに煩悩が襲ってくる。もはや美味しいものを食べるために生きている自分。
果たして断食に耐えられるのだろうか。

前日の夜は17時頃に済ませ、歯を食いしばって早めに就寝。



断食修行1日目


新勝寺まで距離があるため始発で出発。
スマホ禁止のため切符を買い、グーグルマップも使えないので地図をコピーしたものを持参。
文明の利器の偉大さを早くも思い知る。


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スーツケースをガラガラ引き、地図を見ながらキョロキョロしてたので、成田空港に行く予定が間違えて成田駅で降りちゃった感ある人になった。

指定された病院の名前は藤倉クリニック。
場所は意外とすぐわかり、8時ぴったりに来院。
健康診断といっても尿検査とか血圧測ったりするだけの簡単なもの。10分くらいでおわる。
お会計を済ませると、受付の人が「頑張ってください!」と言ってくれた。

「はい、頑張ります…。」

いよいよこれからかと思い、覇気のない返事をしてしまった。
こんなにウキウキしない遠足も珍しい。


病院から少し坂を下った先にお寺があり、参籠堂という建物を目指す。
扉を叩くと世話係のひとが迎えてくれた。声を聴いてこの人が電話先の仏だと気づいた。やはり優しそうなひとだった。
今日から一緒に修行をする人はわたしを含め、女性3人。男性はいないようだ。


まず同意書にサインをする。
今日の日にちを記入する欄に、令和1年と書いたら「まだ平成ですよ」と笑って訂正してくれた。
ここで早くも無知と馬鹿がバレる。

修行中のスケジュールや説明が終わり、
「飲食物はもってきていませんね?」と念押しをされる。
以前、飴玉をポケットに入れてきたひとがいるらしい。
たまにリュックの奥底にお菓子が入っていることがあるので慌てて確認をする。

「スマホなどの電子機器も持ってきてないですね?」

遠方から来てやむ終えず持ってきてしまった人はここで預ける。
こっそりスマホを持ってきたが緊急地震速報の音でばれてしまい、退堂になったひとがいるらしい。恐ろしすぎる。

「本当に、ないですね?」

白状しないと後ろから刺されるであろう声のトーン。
仏の顔も三度までというが、ここで犯した罪は一度でも許されないだろう。
正座した足がジンジンする。

すべての説明、確認が終わり寝泊まりする部屋に案内される。
そこはだいぶ昔に建てられた建物という感じだったが、中はとても綺麗。
トイレも和式と洋式があり清潔感がある。廊下もピッカピカのつるつるりん。
修行というくらいだからもっとボロボロだと思ったけどすごく快適な空間だった。
女子みんな相部屋なのでシェアハウスのよう。寺スハウス。



断食時のスケジュール


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1日のスケジュールはこんな感じ。
これを見てくれるとお分りいただけると思うが、とにかく自由時間が多い。
暇つぶしがないと、飢餓より暇で死にそう。

荷物を整理し布団を敷くとさっそくやることがなくなってしまった。
暇なので渡された湯のみとやかんを描く。



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朝からずっと空腹だが、耐えられないほどではない。
暇だからなにか食べたいという感じ。
今日は写経と座禅を体験した。断食体験者は無料で行うことができる。
日が経つにつれ体力がなくなってくるので、どちらも断食初日に行う人が多いそう。



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18時門限。門限のあとは一歩も道場からでてはいけない。

夜はほかの4人の修行者の方々と雑談をした。
5人でひたすら食べ物トークが繰り広げられた。
今食べたいもの、帰ったら食べたいもの…。
日常でこんなに食べ物の話題で盛り上がることもない。
そしてハンバーガーや揚げ物などのジャンキーなものより、体にやさしいものが食べたいという人が多いことに気づく。
納豆ごはん、味噌汁、お粥…甘いものなら洋菓子ではなく和菓子。

本当にお腹が空くと、体が欲してるものが食べたくなるんだろうねという結論に至った。
会話中、カイロの袋を開ける音がお菓子を開ける音に聴こえたり、無意識に「美味しい…」と呟いたり、「素朴」が「そぼろ」に聴こえたりと、とにかくみんな食べ物に敏感になっていて終始爆笑していた。


また、世話係の人は2人いて、私が電話で話した仏、もうひとりは厳しめの人だということが発覚した。わたしは運良く仏に当たったようだ。
雑談をしていると修行というより修学旅行のようで、空腹が紛れた。

しかし消灯時間になり、寝ようとすると、ふたたび空腹が蘇ってくる。
かけ布団が大男が覆いかぶさってるのか?というほど重く、枕はかたい。
空腹だと寝れなくなるのでずっと食べ物のことを考えていた。



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断食修行2日目


ほとんど眠ることが出来ず、起床時間である4時半を迎える。
普段こんな早い時間に起きることはまずないが、寝ていないにも関わらず目は冴え渡っている。

今日は朝護摩を始めて体験。
30人ほどのお坊さんたちが一同に集まり、炎が燃え上がる様子は圧巻だった。
空腹を忘れ見入っていた。


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朝護摩が終わるとさっそく自由時間。
この日は図書館にいくことに決めていた。
図書館には自習室があり、寝泊まりしてる部屋よりあたたかく、漫画もある。
ここでひたすらイラストを描き空腹を紛らわせた。

お昼になり、境内をボランティアの方に案内してもらうことに。
新勝寺の境内はものすごく広い。1時間弱の間、ボランティアの方が丁寧に説明をしてくれた。
人の話を聞いていると空腹が紛れてよかった。

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その後は部屋へ戻りひたすら布団の上でゴロゴロ。

消灯は22時だが、みんな布団にこもっていたため、20時過ぎには電気を消し就寝。
空腹のせいか今日も全く眠れない。
ほかの人たちは良く眠れている様子・・・なぜ自分だけ眠れないのか…!

2時頃突然吐き気におそわれた。とにかく気持ちが悪い!
この頃には空腹感はなくなっていたがその後は吐き気との戦いだった。
結局寝た時間は2時間ほど。水分ばかり取っていたからかドリンクバーを行き来する夢を見た。



断食修行3日目


へろへろになりながら起床し朝護摩へ。
本堂へいくまでの階段が辛すぎる…!

明らかに体力が落ちていることが分かった。
昨日は朝護摩の迫力に圧倒されていたが、今日はだるさでずっとボーっとしていた。
厳粛な雰囲気もあって、あの世行くときってこんな感じなのかなぁ~~~とか思ってた。

とにかくなにもしたくない。この日はあまりにもだるすぎて本読めない。
布団から手を伸ばし、弱々しく体調をメモする姿は晩年の正岡子規のよう。

何もする気力がなく、ただただ廃人のように布団にこもっていた。
しかし眠れない。だるいし吐き気もあるのに眠ることができない地獄。
吐き気とだるさが大きすぎるせいか空腹はまったく感じなかった。
この吐き気がおさまるのなら胃になにか入れておきたい・・・という感じ。
顔はどうなってるんだろうと思い、のそのそと起き上がり鏡をみると、見るからにげっそりしていて青白くなっていた。

断食は2日目が最もつらく、3日目からは楽になるとよく聞くが、わたしは3日目が1番辛かった。
普段の食生活が乱れているからだろうか…。
とにかく時間が経つのが遅い。明日帰れる…明日帰れる…と思いながらひたすら時がたつのを待っていた。

夜、吐き気がピークに達しもう吐いちゃえ!と思いトイレに向かう。
するとびっくりするほど胃液を吐いた。こんなに吐けるものかというほど吐いた。
吐いた後は体の中の毒素が出たのだろうか、驚くほどすっきりし、だるさも軽減された。吐き気を感じたら吐くことをオススメしたい。

その後はよく寝ることができた。



断食修行最終日


朝起きると空腹感はなかった。
だるさはあり体力が完全に落ちているということも分かったが、それ以上についにシャバに帰れるという高揚感でいっぱいだった。

空腹感はないが、やっと食事ができると思うと嬉しくてたまらない。
わくわくしながら指定された場所へ向かうとお粥が用意されていた。


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まずはなにもつけずにゆっくりとおかゆを食べる。


う、ウメェ…

なにこれ…五臓六腑にしみわたる…やさしい味…。



お茶も焼きみそもとても美味しい。梅干しはものすごく酸っぱく感じた。
ほんの少しの量でお腹がいっぱいになった。

おかゆを堪能した後、布団や湯呑みを片付け、ほかの修行者の方たちに挨拶をし世話係の方の元へ向かう。
今日の世話係は厳しめの方の人だった。

「お世話になりました。」と言うと

「3ヶ月くらい空けたら次は6泊7日できるからね。」
と返答が。

「あぁ…はい!」しか言えなかった。

重いスーツケースを引き、息も絶え絶えながら登り坂をのぼり、駅へ向かう。

電車に乗る前、マクドナルドでオレンジジュースを飲んだが
(え!?なにこれ?!果汁150%?!)
と言うくらいの濃さを感じた。カルピスの原液並みに濃い。相当味覚が敏感になっていた。

その後帰路に着き、3泊4日間の断食ライフは幕を閉じた。


まとめ


〇よかった点〇



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もう、とにかく生きてるって素晴らしい~~~!という気持ちになる。
食べ物が食べられるだけで幸せ!お家さいこう!スマホ!テレビ!ハッピーライフ!!イエイ!!と気持ち悪いくらいハイテンションがあがる。

悪かったことは体力が落ちることやお風呂に入れないこと。
悪い点もあるがそれ以上に良い点が多いため、経験してみて良かった。

あれから1ヶ月がたち、断食終了直後は3キロ痩せていたが、その後どんなに食事に気をつけても体重はすぐに戻った。やはり痩せた原因のほとんどは水分…。
体力も日に日に落ちていったため筋肉も落ちただろう。

だが味覚が変わり、今まで洋食を好んで食べていたが最近は魚や発酵食品など日本の伝統的な食べ物をよく食べるようになった。
その後徐々に体重も落ちている。

断食はダイエットに直接的な効果はないが、一度身体をリセットし、長期的なダイエットへ向けてのスタートとして行うとやる価値もある。
ガチの修行をしたい方は真夏と真冬をおすすめするが、最初は過ごしやすい時期に2泊3日から始めた方がいいと思う。

断食中の症状や辛さは人それぞれで個人差があった。
他の修行者の人の話を聞く限り、日々規則正しい生活を送る人は辛くなく、私のように乱れている人ほど辛い修行となる。
驚いたことにスマホやPCがなくてもさほど辛いとは思わなかったが、どんな欲よりも食欲が優っていたからだろう。

たくさん食べれば健康になれる、食べなきゃ痩せられる…などさまざまな情報であふれているが、情報に翻弄されず自分で試してみる大切さを知り、今まで以上に食べ物に深く感謝し食事をするようになった。

身体をリセットしたい方、非日常な体験をしたい方、ぜひ断食修行をしてみてはいかがだろうか。




【著者】

河澄かるめ
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